幻在相交
源龍と羅彩女そろって、図々しく樹にもたれて、足を伸ばし腕を組む。
子どもたちといえば、同じように樹にもたれる子もいれば、木陰で横になり。すうすう寝息を立てる子までいる。
いい気なもんだぜと、源龍と羅彩女は子どもらを眺め、上を向けば。枝に葉茂り、木漏れ日きらめく。
世界樹は黙して語らず。
「よいしょ、よいしょ」
と声がするので、その方を向けば。子どもたちが鎧を担いで、こっちに来ている。ふたつ。黒い男用と赤い女用。
一見何の変哲もない、汎用のもののようだが。源龍と羅彩女は感じ取った。血の臭いを。
この鎧は多くの血を吸っている。きれいそうだが、じっとみているとそれまでに浴びた血が浮かび上がりそうだった。
「これは、いわくつきのやつなんじゃない?」
そう、羅彩女が問えば。子どもたちは、返答もなくにっこりわらって、鎧を置いて。ぱっと散らばり駆けた。
「こら、人の質問に応えるもんだよ!」
声をあげれば、子どもたちはにっこり。
「これを着て戦うんだよ」
と言う。
「はあ?」
羅彩女は怪訝な顔をするも、子どもたちはかまわずにっこり。源龍は、はあ、と大きく息を吐き出す。
どうせ、前の持主は何らかの罰を受け。子どもに戻されて、めそめそ泣いているんだろう。声に出さないが、そんな想像は出来た。
が、それでも言わねばならぬことはある。
「おい、世界樹さんよ。人を働かせるなら、それなりに見返りはあるんだろうな。言っておくが、オレはただ働きはしねえぜ」
「ねえねえ」
「なんだ?」
別の子どもが、なにか円形の青銅鏡を持ってきた。よく磨かれた鏡面の裏は、中心に突起があり。その周囲を、何やら鳥獣が刻印されていた。よく見れば、鳥は頭に飾りが尻に派手な尾羽がある。鳳凰だ。
それを見て、羅彩女と源龍はぎくりとする。
他、麒麟、三本足の烏、龍、虎、など、さまざまに、細かく刻み出されている。かと思えば。その鏡に映し出されるもの。源龍と羅彩女はそれを覗きこんでみれば。
「これは」
「辰の公主(姫)さんじゃないの!」
「公孫真のおやっさん」
鏡に映し出されるのは、辰の公主にして青藍公主と称される劉開華。ともにいるのは、その武芸の師匠役、公孫真であった。
公孫真はともかく、やんごとない公主である劉開華までもが女ものとは言え平民が着るような身動きのしやすい服を着て。脇には槍を携えている。
どこともしれぬ草原で、馬を駆っている。後ろに追っ手、前にも兵が立ち塞がる。
久しぶりに見たその姿に懐かしさを覚える余裕はなかった。これは只事ではない事態だ。




