幻在相交
「ぼやぼやするでない。寺を上げて祈祷じゃ、支度せい!」
「はい!」
慌ただしかった光善寺の者たちは元煥の指導よろしきを得て、寺に読経の声を響かせるのであった。
その間、朝の太陽は真上に上がり、何事もなくいつも通り下界を見下ろし陽光を降り注ぐ。
ふもとに下り立った志明や貴志、香澄にマリーとリオンは、待機していた部下に驚かれる。
「余計な口は聞かずただオレの言うことに従え!」
と部下らは志明に言われ、馬車に貴志らを乗せる。その時の部下の顔は、いぶかしげ、でなく、どこかほっとしていた。
皆、貴志のことを心配していたのだ。貴志はまだお役に就いていないし、もともと人にやさしい性格だから、下々の者の評判はよかった。
しかし何事かあったのか、今度は源龍らがいなくなった。志明も落ち着かないままに、そのまま漢星に直行するという。
馬車は進む。都目指して、ひたすら進む。そして揺れる。体調の優れぬマリーは香澄とリオンに付き添われて、揺れを堪えていた。せめて横になれればよいのだが、馬車はせまく座るしかなく。壁に背をもたれ掛けさせてようやく身体を安定させて、息を整えていた。
それでも、最初よりはかなりよくなっている。揺られるとはいえもう身体を動かさなくてよいのは助かる。
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
心配そうなリオンの眼差しに、優しく微笑んでマリーは応え。香澄はそれを見て微笑む。
貴志は別の馬車に、志明と一緒に乗っている。
空いた馬車もある。
もともと、志明、源龍に羅彩女と虎碧に龍玉らを乗せる分用意していたのにくわえ、もし貴志とどこかでばったり出会った時のためにと一台余分に用意していたのだが。
まさか光善寺で入れ替わるようになるとは。おかげで馬車余りになったが、何かの拍子に帰ってくるかもと用意した馬車を空のまま走らせることになった。
間抜けっぽいのは禁じ得ないが、やむを得ない。
馬車には源龍と羅彩女の鎧が置かれていた。
青空が広がり、太陽がまぶしく輝き。雲ひとつない晴天の下では、大樹がそびえ立ち。
その周囲を、髪の色に目の色、肌の色も様々な子供たちが思い思いに駆けて遊びまわっている。
源龍と羅彩女は、気が付けば、またここかと思いつつ。大樹のすぐ下、木陰まで来て。得物の打龍鞭と軟鞭を脇に置き、どっかと座る。
周囲に子どもたちが寄ってくる。
見るからに柄の悪そうな源龍と羅彩女に怖じる様子もない。
「皆の活躍を見ているよ!」
などと、突然言われて、苦笑する。別に活躍をしているつもりはないが。
「で、オレたちは何をすればいいんだ、世界樹さんよ」




