幻在相交
羅彩女は、
「無理しちゃって」
と言うが。虎碧は、龍玉らしいとむしろ微笑ましいものを覚えた。
しかしマリーはどうするのか。
という時。にわかに霧がかかってくる。志明は嫌な予感がする。
僧や尼僧らも、にわかの霧に驚き、首を振って周囲を見渡し。
「これは何事」
「九尾狐だ、妖が出したんだ」
などと言う。
「あたしの仕業じゃないよ!」
歩を止め、にわかの霧に包まれながら怒る龍玉。リオンは、
「これで歩かずに済むかもしれないね」
などと言う。
いよいよ霧は濃くなり。周囲は白一色。もう太陽も見えぬ。ただ濃い霧が陽光に照らされて、不気味に周囲を白く染め上げ。すぐ隣の者の顔すら朧げ
必死の思いで合掌し、経を唱える者はまだしも。それも出来ずに、あわあわとへたり込む者まで出る始末。
「貴志!」
志明は不安を覚えつつ、貴志の名を呼んでみた。
「はいッ!」
闊達な返事とともに、声の方向をたよりに兄のもとにすぐに駆け寄る貴志。腰帯に青い球の七星剣。そばには、香澄に支えられるマリーと、そばにリオン。
「や、いるか」
またあの時と同じように、貴志らは消えると思ったが。意外なことにそうはなっていない。
「兄さん、源龍が、羅彩女と虎碧ちゃんに、龍玉さんもいません」
「なんだと!」
貴志が消えなかった代わりに、源龍たちが消えた。
やがて、霧は晴れてきて。周囲が見えるようになれば。いつもと変わらぬ風景がそこに。
「今度は奴らか」
心なしか、志明はほっとしているようであった。しかし元煥は、
「ほっとしている場合ではないぞ。早う漢星に行かぬか」
などとせっつく。
「兄さん、法主の言う通りです。鳳凰を見たでしょう。あの鳳凰は吉兆ではありません、凶兆なんです」
「ううむ」
あんまりな展開に志明は頭が着いていかない。しかし、只事ではないことはわかる。
「鳳凰が凶兆とは」
いったい何がそうさせているのか。ともあれ、意を決し、下山し都を目指すことを決めた。
他の僧侶はぽかんとしている。もう合掌する気さえ起らぬようだ。それを尻目に、それではと軽く挨拶し。志明は歩を進める。
「失礼」
貴志はマリーを抱える。人目もあるが、そんなことを言っている場合ではない。リオンはにこりと微笑んで、頼むよと言えば。香澄はリオンを抱いて下山する。
(貴志はいいなあ)
なぜかそんな不謹慎なことを考えつつ、志明は先頭に立って歩を進めた。それを見送り、元煥は僧侶や尼僧らを振り返り。
「喝ッ!」
と声を張り上げ。ぽかんとしていた僧侶や尼僧らは、はっとして合掌し一礼し。うむと元煥は頷く。




