幻在相交
マリーは虎碧と龍玉に支えられて庵に入り。リオンもそばにいてやる。
「マリー殿の様子では下山もままなるまい。女衆は庵にて休めばよい。尼僧もつけよう」
「……お世話になるよ」
羅彩女は礼を言い。庵に入る。女たちは皆庵に入ったが、もう一杯だった。
リオンが出てくる。
「僕も一応男だから」
と言い。他の面々の笑いを誘った。
ともあれ、今日は休んで明日出発だと思った矢先だった。
「九尾狐は大丈夫なのか」
と、僧がひとりそう言った。元煥は、きっ、と睨んだ。志明も睨んだ。しかし僧はひるまない。
「神聖なお寺に九尾狐、妖がいるのはいかがなものかと、私も思います」
「よさぬか。他の者と一緒に妖と戦ったではないか」
「妖が妖を呼んだのではありませぬか」
「ご法主こそ、どうなされたのですか」
「むう……」
僧ら、いつの間にか尼僧も交じって、一同を敵視したうえに元煥に疑いを抱いていて、思わず絶句した。しかし黙ってもいられない。元煥は声を上げた。
「さきほど、翼虎を見かけたであろう。吉兆ではないか。それに、仏法者はいかなる存在も否定せぬ」
(しかし、情けない!)
日々共に修業し、仏法を学んでいるにも関わらず。いざ異変が起きると恐慌をきたし、法主まで疑うとは。
(人の心の頼みがたきに泣かされるわい)
一体なにが人心をそうさせるのか。理屈立てしようと思えばいくらでもできるが、もうそういう話ではない。
この僧らの騒ぐ様は、庵の中にも聞こえている。龍玉はやれやれと肩をすくめて。虎碧らが止めるのも聞かずに、外に出る。
「わかったよ、出ていくよ」
もう尻尾を出し、龍玉は悪びれる様子も見せず、あっけらかんとした態度で、出てゆくと言う。
「それなら自分も」
と、女性陣は下山すると言い出す。
源龍は「けっ」と、けったくそ悪そうにし。貴志は、
(あの鳳凰が現れてから、こうなるんじゃないかと思っていたけど)
どうしようもない思いに駆られる。
マリーもよろけつつ、庵から出ている。虎碧が付き添っているが、自分の足で下山はままならないようだった。
貴志が、四頭山の集落から逃げた時のように担いでもいいのだが。人目のある前でそれは憚られる。
「ご法主。お気持ちだけで十分でござる。それがしらは、これにて」
事態を察し志明も皆とともに下山する気になった。
僧や尼僧らは、
「妖、退散せよ!」
と合掌し、経を唱えている。
「ふん、そんなもの効くか!」
龍玉は読経の声を払うように右手を振り上げ。ずかずか先頭に立って、腰からの九つの尾を見せつけるように揺らし、歩き出す。




