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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻在相交

 やがて翼虎と、背に乗る刹嬉の姿は見えなくなった。空の向こうに吸い込まれるように。

 しかし穆蘭は力なく座り込むのみ。不思議なことに、彼女は消えない。

「ねえ」

 誰かを呼ぶように声を出し。香澄に「なに」と応えられれば。

「あなたじゃないわ、お兄さまよ。……剣を渡して」

 と、つれない返事をする上に、そんな指示をする。貴志は一同の視線を痛いまでに感じながら、「なんだい?」と返事をして。筆の天下を懐に納め、香澄から剣を受け取る。

「貴方の心の中には、別の人がいます」

「え?」

 貴志はぎょっとする。何を言うんだと。同時に、

(どうしてわかる?)

 などとも思った。

「だから、諦めます。でも、せめて剣となっておそばにいることをお許しください」

 そう言って掌で剣身を挟み込めば。その姿は霧のように、儚げに消え。霧は剣に吸い込まれ。剣身の紫の七つの珠は、青く変わり、きらきらと輝きだす。

 穆蘭が消えて。鞘が残る。香澄はそれを拾って、貴志に差し出す。

「……」

 青い七つの珠を見ながら、鞘を受け取り。静かに剣を納める。

 源龍げんりゅうは視線鋭くも、何も言わず成り行きを見守る。

 自分の創作した人物が実体化したばかりか、想いを寄せて。しかし駄目だと諦め、得物を残して消えるなど。

 これこそ夢、幻夢の出来事ではないか。

 しかし頬をなでる風はたしかに現実のものだった。

(我らは幻夢の旅人)

 元煥はふと、そう思った。

 貴志は、ふう、とため息をつき。鞘に納まる七星剣を帯に差した。

 羅彩女らさいにょも、尻尾が出っぱなしの龍玉りゅうぎょくも、黙って成り行きに身を任せるしかなかった。母を膝枕する虎碧こへきに、娘の膝に頭を預け今は目を開けているマリーと、そばのリオンも、無言で成り行きに身をゆだねていた。

「で、どーするんだ?」

 とりあえず落ち着き、源龍は志明を見て言う。

 陽はもうだいぶ高いところまで来ている。

「その、マリーさんもえらく堪えているようじゃねーか。漢星ハンスン行きは明日に伸ばしてもいいんじゃねーか?」

「あ、私なら大丈夫です」

 娘の膝枕に身を預けていたマリーは、慌てて起き上がったが。足元がふらつき、虎碧に支えられる。

 いつの間にか龍玉もいて、片脇を押さえる。尻尾はもう隠している。

「……」

 元煥は、じっと志明を見る。ここで自分が何か言ってもよいのだが。やはり、ここは志明が自ら声を発するべきであろう。

 視線を受けた志明も、一同、香澄と源龍、貴志に羅彩女、虎碧と龍玉やリオンにマリーを見回し。

(やむをえぬ)

 意を決して。

「出発の支度をしなおす。ご法主、申し訳ないがお寺の庵を使わせていただきたい」

「ああ、かまわぬよ」

 感心の頷きをしながら、元煥は顔をほころばせた。

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