幻在相交
「たとえ醜かろうが、我が心のままに生きるのだ。もう作者の頭の中などという狭い世界に翻弄されるのは、御免だ!」
「わけわかんねーよ!」
打龍鞭を繰り出すだけではない、時には蹴りを繰り出し。脇腹に当てようとするもかわされ、跳躍される。咄嗟に源龍は間合いを開けて、構えを直して、相手の次の動作に備える。
上方向から急降下し相手は来る。源龍は足を踏ん張って打龍鞭を下段に構えながら跳躍し、阿修羅刹嬉めがけて得物を振り上げる。
びしいッ!
鋭い音を立てて、打龍鞭は見事阿修羅刹嬉の顔面に当たり。その顔面、鼻柱はへし折れて。のけぞって、落下し。
背中を地面にしたたかに打ち付けて落下し、同時に源龍も着地した。
「ぎゃあああ、痛い、痛い!」
打龍鞭がもろ当たりし、鼻がへしゃげた正面の顔面は、死んでいるかのように無表情で。左右の顔が代わって泣き喚き、六本の腕と足をばたばたさせて、のたうちまわる。
しかし源龍は容赦しない、着地しざまに駆け出し。のたうちまわる阿修羅刹嬉目掛けて打龍鞭を振り下ろす。
ぶうんと唸りを上げて、またぶち当てられると思われたが。きんッ、という鋭い金属音とともに打龍鞭は止められた。
穆蘭であった。香澄と対峙していたのが、阿修羅刹嬉の危機に際して駆け出し。七星剣を以って打龍鞭を止めたのである。
「なんだ、この香澄もどきは!」
「私はもどきではない、穆蘭という名がある!」
「うるせー知るか!」
今度は穆蘭と源龍の渡り合いである。
置き去りの香澄は、それを眺めて、貴志のそばに戻った。
「うえ、きもー」
「なんだいありゃあ」
羅彩女と龍玉が変な声を出す。何事かと思えば、見よ、のたうつ阿修羅刹嬉の正面の、開かれた口から、まるで軟体動物のようにぐにゃぐにゃの人間が二体吐き出されて。よく見ればそれは、手に吸い込まれた馬豪と宋巌であった。
それが、羅彩女と龍玉を見るや、
「女、女だ!」
と、ぐにゃぐにゃの軟体動物のような有様で、にやけて、駆け出す。
馬豪と宋巌の事を知らない羅彩女と龍玉は、得物を構えて、やるか! と、渡り合う。貴志はただただ唖然呆然であった。自作の登場人物が自意識を持ち、設定からどんどん外れるのである。
馬豪と宋巌が女を襲うなど、さすがに考えたこともない。
「もうしっちゃかめっちゃかだ!」
思わず唸り、それを聞いた香澄は微笑み、マリーと虎碧も貴志に目をやった。
源龍と穆蘭も、一進一退。が、香澄は表情を引き締め。
「源龍、代わるわ!」
と、七星剣を振りかざして駆け出す。




