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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻在相交

「はあー、この爺ぃらもそうか」

「爺ぃとはなんじゃ!」

 馬豪と宋巌は爺ぃ呼ばわりされ素直に腹を立てる。

「ちょっと、こっちも気にしてよ!」

 羅彩女だった。刹嬉と渡り合っていたが、押され気味だった。相手は無手である、軟鞭という得物がある羅彩女有利に思えたが。なかなかどうして、刹嬉は優れた体捌きを見せて、羅彩女を翻弄する。

「無手を相手に得物で渡り合って、その上助太刀までいるのか!」

「うるさい。あたしゃそんな体裁なんか知らないよ!」

 軟鞭は蛇のようにうねり、風を切って唸り、刹嬉に襲い掛かるが。結局ことごとくかわされてしまう。

 香澄と穆蘭はいつの間にか、間合いを取って睨み合って動かない。ふたりの間には、緊張の糸が張り巡らされていた。

「おう、助太刀するぞ!」

 馬豪と宋巌は求めに応じて駆け、羅彩女と三方から刹嬉を攻めた。が、しかし、刹嬉は馬豪と宋巌の手を掴むや、人の頭より高く跳躍し。あろうことか、馬豪と宋巌双方ともなすすべもなく一緒に跳躍させられたではないか。

「な、なにをする!」

「離せ、離さんか!」

 手を振りほどこうともがくものの、刹嬉の手はまるで鋼鉄で出来ているのかというくらいに硬く、振りほどけない。しかも、宙に浮いたまま馬豪と宋巌はぶら下げられている有様。

 一同の視線が、香澄と穆蘭を除いて、宙に浮く刹嬉に向けられる。

「その手を離しな!」

 真下の羅彩女は突然のことに固まってしまったが、龍玉は弾かれるように跳躍しざまに剣を抜き、刹嬉に鋭い刺突を食らわせようとする。

「……! お前は九尾の狐か!」

 相手の素性を素早く察し、察せられた龍玉も驚きを禁じえず。動きがやや鈍った。その隙に、剣をやり過ごして馬豪と宋巌をぶらさげたまま、刹嬉はさらに高度を上げた。

 龍玉は着地し、忌々しく空を見上げる。それからはっとして、腰の方を見れば、なんと隠していたはずの九つの尾が出ているではないか。

「こいつ、人間じゃない!」

 なるべくなら隠していたかったのが、こうして暴かれるのは気分の悪いものであるが。この女は妖気をはらみ、妖気の念をもって尾を出したとなれば。相当なものだ。

九尾狐クミホだと!?」

 と志明や元煥らは驚くものの、貴志らは特段驚くでもない。

「貴志、知っていたのか!」

「……はい」

「ううむ、あやかしの者も一緒とは」

「待て、あの九尾狐には妖気はあるが、邪気はない」

 龍玉の正体を知り、志明は驚くばかりだが、元煥はすぐに落ち着きを取り戻す。

 などとやっているうちに、馬豪と宋巌の様子がおかしくなった。

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