幻在相交
源龍は叫んだ。
「畜生、来るなら来やがれ!」
「これ、寺ではしたないことを言うでない」
元煥は咄嗟に諫めた。
一同は様子を眺めた。雰囲気がおかしいとはいえ、そこから事態が変化することはない。
しかし。
「ううむ」
色んな意味で僧らしくない元煥は、真顔で眉をしかめて唸る。他の僧は、これがいかにおかしな事態かを察して、不安が増すのを禁じ得なかった。
球体は高度を下げていたが、鳥の飛ぶ高さのところで止まり。じっと下界を見下ろすかのように動かない。
太陽のように光り輝き、眩しくて正視できず。やむなく目をそらさざるを得なかったが。それを察してか、球体は再び高度を上げて、西から東に移り、太陽の隣に戻った。
かと思えば、一旦止まったのが、また、すすすと動いて。太陽と重なるではないか。
「畜生、眩しくてまともに見れやしねえ」
手で目をかばいながら源龍は呻いた。目がちかちかする。
しかしそれにしても、あの球体は何者で、なんのゆえあってあのような動きをするのか。
龍玉と虎碧は、龍玉が手で目をかばいつつ球体の様子を見て、虎碧は碧い目を閉じて下を向いている。じっと見続けられないから、こうして交代しつつだった。
羅彩女も見ていられないと、やむなく目を閉じた。志明も目を閉じている。球体の眩しさに目がついてゆけない。
源龍も舌打ちして、目をそらして、瞼を開けて閉じてとぱちぱちさせる。
瞼を閉じても光の残滓が明滅する。
元煥をはじめとする僧たちも、同じように目をそらさざるを得なかった。球体を見続けるのは目に障る。
しかしその眩しい光の球体が、急速に陰ってゆく。太陽と重なっているためか、陽光すら遮蔽する。
夜が明けて朝が来たばかりなのに、また夜に戻っているかのようだった。
眩しさがなくなり、球体が急速に黒くなってゆき。一同は目の心配がなくなって一斉に空を見上げた。
元煥はふとふと、源龍をちらりと見やって、
「逃げるか?」
と、問うてみた。
「馬鹿を言え」
源龍は鋭い視線を球体に向けて言う。
「オレたちの戦いはこれからだ!」
その叫びを受けてなのか、球体は一瞬ぶるっと震え。太陽を背にして、波打ち。姿かたちを変えてゆく。
それは、文字で、
完
という形となった。
「完、なんだそれは?」
志明が呆気に取られて言う。字が読めない源龍は、意味が分からない。
「我らを終わらせる、ということかな?」
元煥も咄嗟にその意味するところは理解しかねるものの、自分なりに考える。
この球体は何か危害を加えて、一同を死なせるとか、そのような危険性がはらんでいるということか。




