幻在相交
庁舎を出て。まずこの光善寺に立ち寄り、法主の元煥と面会したのである。
挨拶を簡単に済ませて。寺の門の前の庵で、志明、源龍、羅彩女、龍玉、虎碧ら、円座で向かい合う。
「仕方がないのう」
元煥は志明から話を聞き、苦笑しつつも、意を決して一行と同行することとなった。
李貴志と香澄に、リオンとマリーが忽然と消えてしまった。これはゆえあってのことであると、元煥から王に話をしてもらうのである。
暁星の王、雄王は善政を施す寛大な王である。元煥から話をしてもらえれば、わかってもらえるのではと。
「支度をするから、ここで待っておれ」
「ありがとうございます!」
志明はもう元煥に頭を下げっぱなしだった。源龍たちはそのひたすら低姿勢の態度に苦笑しっぱなしだった。
一同庵から出て、支度のために寺に戻る元煥の背中を見送っている、まさにその時。
かっ、と世界が光った。
稲光か。不審に思った一同は空を見上げた。
「なんだあれは!」
志明は魂消て空の、あるものを指差して叫んだ。
「なんと、太陽がふたつ?」
人生経験も豊富で仏の教えをよく学んで、磊落ながら冷静さもある元煥も、さすがに驚きを禁じ得なかった。
見よ、空に秋の優しい太陽が浮かび。その隣に、またもう一つ、丸く光る球体が、もう一つの太陽であるとばかりに空に浮かんでいるではないか。
途端に、山の鳥たちが、ぎゃあぎゃあと騒ぎ。羽をばたつかせて、なにか慌てるように空を飛び交い。
特に黒い烏がよく騒ぐ。酷いものになると、烏同士空でぶつかり、地面に落ちてからぴくりとも動かない。
源龍は咄嗟に担いでいた打龍鞭を構えた。羅彩女も軟鞭を構え。虎碧と龍玉も素早く剣を抜いた。しかし、まさかここで異変があるなど思わなかったので、源龍は私服だった。
「太陽には烏が住むといういわれがあるが」
元煥はぽそっとつぶやく。
ふたつの太陽に呼応してか。烏が騒がしく、空を覆わんがばかりに多く飛び交い。他の鳥はいつの間にか見えなくなっていた。
もう一つの太陽というか、謎の光る球体は。太陽から離れて、西の空に移動し。それに合わせて、一同も身体を動かす。
球体は空高く浮かんでいたのが、ふわふわと羽毛のように軽やかに高度を下げてゆく。それに伴い、烏たちもばらけてゆく。
「あの糞鳥が出そうだな」
源龍は忌々しそうに言う。
「あの、人食い鳳凰ね」
羅彩女も頷く。
天下は人を食って肥え太る化け物。そんな比喩をそのまま具現化したような存在が、鳳凰の天下だった。
これも世界樹のおぼしめしなのだろうか。何を思って、このような世界を創り上げて源龍らを放り込んだのであろうか。
それは、今考えても始まらないことだった。




