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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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捏的測験

「そうか、我らの心根が、このようなものを生み出したのか。我らがやってきたことが、このようなことを招いたのか」

 康宗は呻いた。

「何を言われるのですか、さあ、早く」

「……。朕はたやすく仕留められはせぬぞ。朕は、朕は、辰の皇帝であるッ!」

 捨て台詞とも思える呻きを発して、康宗は靖皇后らとともに逃げるが。鳳凰は目をくわっと見開き、翼はためかせて飛び、逃げる皇帝と皇后の前に立ちはだかる。

「お前を食いたい、さぞ美味いであろう」

 鳳凰はよだれも垂らさんばかりに皇帝皇后を凝視する。そこに飛び込む黒い影。

 黒い影、源龍は鳳凰の下肢めがけて打龍鞭を振るった。が、鳳凰は咄嗟に跳躍し打龍鞭をやりすごし、天井付近を飛んだ。そこにすかさず、香澄が跳躍し七星剣を繰り出す。

 だが長い尾で七星剣は払われ、香澄はそのまま着地した。

 子どもは貴志に預けられていて、羅彩女は木剣を振るい鬼を打ち消滅させる。

「ひどい悪鬼の怨念だよ」

 木剣を振るいながら閉口する。この者たちは無念の死を遂げたが、どうもその心根から自ら無念の死を招いたと羅彩女には思えてならなかった。

 いつの間にか鬼の集合体も分散し、人に襲い掛かる。しかし個々の鬼には、生前の行いが映し出されていた。その行いは、戦争や略奪、暴行をはじめ、悪知恵を働かせて人を騙す、権力争いのために権謀策術に明け暮れ人を追い落とす、ある思想への共感から身勝手な正義を振りかざし、無用な争いを起こしついに人を死に追いやるなどなど、見るに堪えない人の所業をまざまざと見せられる。

 それが、人食い鳳凰の餌食となり、怨念溢れる悪鬼と化してその嘴からあふれ出ているのである。

「やめろ、やめてくれえー」

 鬼は人に群がって、群がられた臣下や衛兵にまとわりつくと、そのまま目や耳に鼻の穴、口に毛穴に吸い込まれるようにして人体に入り込んでゆき。

 入り込まれた臣下や衛兵たちの形相は青白くなり、みるみるうちに苦悶と凶悪さをともなった、見るに堪えないものになった。

悪鬼入其身あっきにゅうごしん」(悪鬼が其の身に入る)

 貴志は忌々しく、ぽそりとつぶやいた。

「まったくとんだ捏的(危機)だね」

 怨念の塊となった鬼は悪鬼となり、人にとり憑く。とり憑かれた人は、悪鬼に心を奪われて……。

 心を奪われた人は悪鬼の心となって、他の者に襲い掛かる。悪鬼は未練を持ち、依り代となる人体を求め、新たな身体を手に入れて、未練を晴らそうとする。

 鬼が人を襲うのはそのためであった。

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