打敗女王
と思えば。孫威はそのまま、楊勝は魯真である、と書いた。
「なんだって!」
貴志は思わず声が出て、慌てて口をつぐんだ。
「外で彼に会い、案内してもらいました」
「そうでしたか、それは何という奇遇」
筆談をしようと思うも、紙にも限りがある。かといって、誰に聞かれているかわからぬ王宮である。回りくどいながらも、はぐらかしながらの会話をせざるを得なかった。
「警備兵のつとめは、厳しいでしょう」
「彼は優しい男。血の涙を流しながら、やむなく任についているのでしょう」
香澄は静かに聞いている。楊勝こと魯真は王宮に潜り込み、孫威と没有幇の連絡役となっているのだが。警備の兵として仲間を取り締まらねばならぬ心苦しさは。
「その心痛、察するに余りあります」
「いや、むしろ絶好の好機!」
孫威はむしろ顔色をよくした。
「絶好の好機?」
貴志は怪訝な顔をする。孫威は得意げに頷く。
「王宮の兵の中には、魯真に通じる者もおります。また没有幇の者も、あらゆる場所に忍び込ませております」
小さな声で貴志にそう耳打ちする。
「と言うことは……」
没有幇の取り締まりで騒がしい王宮であったが。
「うわああああーーー!」
と、さらに叫び声が上がった。王宮内で騒動が起きたようである。それで、その騒ぎは誰が起こしたのかと言うと。
貴志ら五人は咄嗟に視線を交わらせて、緊張感も高まり、咄嗟に部屋を出てみれば。
「謀反じゃ!」
官人たちがそうわめきながら、駆け足で廊下を走る様が見受けられた。
「謀反!」
貴志は驚きを禁じ得なかった。孫威は、
「いいえ、義挙です!」
と、白面を紅潮させた。
香澄はマリーとリオンのそばで身構える。
そうかと思えば、楊勝、もとい魯真がこちらに駆けてくるではないか。
「いよいよですぞ、孫威殿!」
彼もまた顔を紅潮させて、意気込んでいた。
警備兵として没有幇の者たちを捕まえ、牢に入れたが。それがある程度集まると、通じていた兵に鍵を渡してこれらを解き放ち。さらに忍び込んでいた幇の者や通じる兵とともに、王宮内で一斉に挙兵したのである。
それはもう、王宮内は上を下への大騒ぎである。
「さあ、行きましょう、王の間へ!」
「うん!」
もはや貴志らは意識の外に放り出されて、孫威と魯真は駆け出した。貴志は香澄と視線を交わらせる。
「リオンとマリーは私が守るわ」
「うん、頼んだよ!」
「気を付けてね!」
「お気を付けて」
貴志はリオンとマリーの心配の声を笑顔で受け止め、駆け出した。手には筆の天下をしっかと握りしめて。
香澄はリオンとマリーを優しく部屋に導き入れ、扉を閉ざし。七星剣を抜き放った。




