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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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打敗女王

 貴志らは部屋に入り、周囲を見渡す。窓は閉められている。中央に円卓が置かれて、椅子は四つ。燭台は円卓の上。

 しかし寝台はない。寝る時は床で雑魚寝せよということかと、苦笑する。

「まあ贅沢も言えない立場だしねえ」

 と、リオンはよいしょと椅子にこしかけ。

「ふう、とりあえずくつろげてよかったねえ」

 と、子どもらしくないことを言う。

 香澄も貴志もマリーも、リオンに続いて椅子に腰掛け。思わず、ふう、とひと息つく。

 こうしてゆっくり座れるというのはありがたいことだと、つくづく思わされるのであった。

「でも、孫威さんが来たら、どう話をするの。作者だと言ってもわかってもらえないでしょう」

「そうですね。だから、筆記用具を所望したんです」

「詩を書くの?」

 と言うマリーに、貴志は微笑んで、

「そうです」

 と応えた。

 とか話しているうちに別の官人が来て、数枚の紙と、下敷き、墨の入った硯に、筆を持ってきて。円卓に置いてくれた。

「ああ、筆はありますから」

 と、ふところから筆の天下を出して、見せた。

 さすが孫威の知り合いであると言いたげに微笑んで頷いて、官人は筆は持って部屋を出た。

「さて……」

 貴志は書く準備をし、筆の天下の筆先に墨をつけ。筆先をさらさらと紙上に走らせた。

 それは紙上で筆先が舞を舞うように、鮮やかな動きを見せ。墨汁は字をなして。文章がつづられてゆく。


 没悪心

 有善心

 幇作成

 危機已經過去


(悪い心がなくなって。

 善い心を有し。

 組織を作り。

 危機は去ります。)


 香澄はできた詩を見て、くすりと笑った。

「そういうことね」

「まあ、即興で下手な詩だけど。孫威を信じて……」

 孫威の書く詩の特徴は、上手い下手を意識せず、短くてわかりやすいが。その中には、必ず風情があり。人の心の機微に触れることだ。

 それと比べたらこの詩は風情もなく。意味も不明で。厳しい詩人が見れば怒りのあまり紙を破りそうである。

 しかし、目的は上手な詩ではない。

 扉越しには足音がひっきりなしに聞こえる。早足で高い足音も聞こえる。時に何か言っているのも聞こえる。

 悪王を倒し国と民を救わんとした没有幇は、穆蘭のあらぬ心変わりによって壊滅することになった。

 孫威はどのくらいしたら来るのだろうか。それまで、なるべく身も心も休めたやった。

 この世界に飛ばされてから、ろくに休めていない。まるで急な坂道を転げ落ちる樽の中に詰め込まれたような慌ただしさだった。

 しばらくして、扉がこんこんと軽くたたかれる音がし。よろしいでしょうかと、声がする。

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