打敗女王
「なら、お前たちは何だ」
「はい、私らは大道芸人でして。演武、あるいは舞いを売りに江湖を渡り歩いております」
「そんな話信じられるか!」
もちろんすんなり信じてもらえない。しかし、孫威の名を聞いて兵らの顔つきが変わったのを李貴志と香澄は見逃さない。
香澄はマリーに七星剣を預け。一歩前に進み出る。貴志はどうするのかと様子を見守る。
「ご迷惑をおかけしたお詫びに、舞いをひとつ舞ってみせましょう」
兵らは何か言おうとしたが、香澄はもろ手を伸ばし、唐突に舞いを舞い出す。白く華奢な手が袖から覗き、細い指が風に吹かれる柳の枝のように柔らかに動き。
爪先立ちになって、滑るように床を動き。身にまとうチマ・チョゴリのすそも風に遊ぶ花のようにひらりと、香澄とともに舞った。
見慣れぬ衣装ながら、兵らはその優雅な舞に思わず見惚れてしまった。
「もうよい」
隊長らしき男が舞いを手で制し。香澄は動きを止めて、一礼して、後ろに下がって跪く。その所作ひとつひとつも、優雅で美しい。
確かに美し舞いであり、ずっと見続けていたいが。さすが隊長は誤魔化されなかった。
「では問う。孫威殿はどのような容姿か」
「二十歳の、細身のお方です」
「むっ」
先に馬豪や宋巌から話を聞いていたので、答えることが出来たが。容姿のみならず年齢も知っているとはと、隊長は少し話を信じるようになった。さらに貴志は言う。
「詩作をご趣味にされておりますね」
「……。その詩をひとつ、言ってみよ」
(あ、しまった!)
貴志は内心ぎくりとした。余計なことを言って自爆してしまった。いよいよ強行突破せねばならぬかと、覚悟を決めたが。詩を言えと言われて、貴志の心の文芸好きに火がついて。
覚えている詩を、いちかばちかで口ずさんだ。
蝴蝶在春天跳舞
我招呼蝴蝶
但是
蝴蝶選擇了異想天開的風
(蝶は春に舞う。
私は蝶を呼ぶ。
しかし。
蝶は気まぐれな風を選んだ。)
「ふむ、軟弱ではあるが、そんな詩を好んで創っておったな」
孫威は詩を書いた短冊を好んで様々な人に配っていたという。もちろん、鋳王と刹嬉にも、上等の紙の短冊に書いた詩を奉納していた。
「オレはよくわからんが、王も女王も孫威の詩をたいそう好まれているそうだ。そんな孫威殿の知り合いなら」
隊長は貴志らに心を許し、兵にも刃を下げるよう命じ。
「一緒に来い」
と、ともに王宮に戻ることにした。
(やった!)
貴志は心の中で会心の喜びを感じていた。香澄は微笑む。マリーとリオンは、貴志に感心しきりだった。




