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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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打敗女王

「やむを得ぬ、あの場所で落ち合おう!」

 馬豪と宋巌は二手に分かれて、追っ手を撒いた。

 結局、貴志や馬豪らはまんまと逃げ去り。省欣は歯噛みし、抑えられない苛立ちを、

「この、馬鹿野郎が!」

 と、部下を殴って晴らした。

 穆蘭は知らぬ顔である。

「やむを得ん。引き揚げるぞ!」

 省欣率いる鉄甲兵らは、ぞろぞろと、軍靴の足音も高らかに貧民窟の路地裏から引き揚げてゆく。魏徴と若い衆の死骸と荒された食堂はそのままである。

 いくらか離れたところで、貧民らが荒れた食堂に群がり。残っている食べ物を漁り、あるいは奪い合って争う。

「ふん。卑しい貧者どもが」

 省欣らはあからさまな侮蔑をもって吐き捨てる。

 そしてそのまま時が経ち、夜の帳が落ちて大胤城は夜闇に包まれた。

 しかし都に眠りは訪れなかった。

 夜を昼にするかのごとく、たくさんの火が焚かれた。松明を持った兵が都の大通りを練り歩き、路地裏にまで入り込んで。

 大々的に没有幇の摘発がおこなわれていた。

「没有幇の貧者どもを、ひとり残らずひっ捕らえろ!」

 省欣は松明を持った部下に囲まれている。自分を囲む部下のひとりは、得物の大刀を担いでいる。いざとなればこれを振るうのである。

 眠りを妨げられた都の者たちは、騒然と、ひっ捕らえられ縛られ、殴る蹴るされ、あるいは抵抗激しいゆけに刃にかかって殺される貧者を多く目撃することとなった。

 省欣のそばには、穆蘭。らんらんと瞳を輝かせてこの摘発騒ぎを見据えているが。捕らえられるのは雑魚の貧者ばかり。目当ての貴志らはまだ捕まえられないことに、苛立ちを隠さなかった。

 お供に着けてもらった年増の侍女から甘菓子を差し出されて、それを頬張る。人前でお菓子をかぶりつく恥など微塵もない。

 省欣らは一旦引き揚げて休息をしたのち、暗くなってから行動を開始したのである。

 省欣らは近衛兵でありながら、直々に王命を受けて路地裏にまで繰り出し、没有幇を取り締まろうとした。しかし相手もさるもの、誰が幇の者かは目星はつくものの決定的な証拠はなく。なかなか尻尾を捕らえられなかった。

 それらしき貧者を捕らえて拷問にかけたこともあったが、自殺用の毒で自殺されたり。知らぬ存ぜぬを貫き通したまま、拷問死されるばかりで。進展はなかった。

 しかし、突如穆蘭が現れて、事は一気に進んだ。

 省欣らも穆蘭は知っている。四頭山をねぐらにして胤国に楯突き。ふもとの年貢を巻き上げていた集落を解放してしまった、憎き朝敵である。それが、改心してお国のために尽くしたいと言うのである。

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