打敗女王
リオンもマリーにしがみつき。
「ひゃああ、大変なことになっちゃったよ」
と、漏らさざるを得なかった。
貴志は短槍を奪い取り、それを振るって兵を薙ぎ払う。
「こんな怖い思いをするのも、わからなかったのかい?」
「まあー、世界樹ってさ、ほら、つれないところもあるからさ」
「……やれやれ」
毎度のことながら、呆れるのも禁じ得ない貴志であった。しかし、どうして穆蘭は、という疑問も膨らむ。
「どうしてなんだ、穆蘭」
そう問わずにはいられなかった。
「お兄さまがいけないのですわ。みんな、お兄さまのせいですわ!」
即答だった。貴志のせいだと言うではないか。
「な、なんだってー!」
短槍でひとり横顔を打ち付け悶絶させながら、思わず叫んでしまった。なんで僕のせいなんだと。
ふと、野次馬がいないのに気付いた。おそらく兵力をもって周囲に睨みを利かせて、厳戒令を布いているのであろう。
「おい、お前はこの女とどんな関係なんだ!」
馬豪に宋巌は、寝耳に水と驚いた。まさか貴志らは刹嬉側の者で、下心あって近づいたのかと思わざるを得ない。
「知りません、知りません!」
貴志だって疑問だらけである。どうにもこうにも、しっちゃかめっちゃかで、なんでこんなことにと疑問に怒りもまぜこぜになってきて、まともな答えなど出来ようもない。
「お兄さまは卑しい匪賊のような真似をなさった。だからあてつけに刹嬉に着くことにしたのですわ!」
「滅茶苦茶だ!」
さすがに貴志も切れて絶叫した。
香澄は七星剣を構えて動かない。穆蘭は香澄と対峙しながら貴志にあてるけるが。そもそも誤解のきっかけは、香澄が主の食事をいただこうと言ったことからであり、別に貴志の発言からではないのである。
しかし穆蘭は香澄より貴志を憎んでいるようだ。
「なんで、どうして! いや、もうやっていられない!」
貴志は短槍を捨てマリーを抱え。それを見た香澄は素早い動きで七星剣を鞘に納め、帯に差し、穆蘭から離れて、リオンを抱えて。それぞれ駆け出す、逃げ出す。
穆蘭と対峙している間は襲われなかったものの、離れた途端に香澄にも刃は襲い来る。
「逃がすな!」
腕を組んで見物していた省欣は叫んで命じて。
しかし貴志と香澄は刃ひらひらと避けながら、食堂から逃げ去る。穆蘭は四人を睨み据えこそすれ、なぜか追わなかった。
抜きっぱなしの七星剣は、ぶきみにぎらりと光った、まるで穆蘭の瞳に呼応するかのように。
馬豪と宋巌もわけがわからないながらも、逃げ出した。
食堂周辺の路地裏はたいそうな騒ぎであった。




