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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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打敗女王

「この、魏徴ぎちょうなる者が皆吐いた! 観念してお縄に着け!」

 隊長らしき兵が叫ぶ。

「むっ……!」

 宋巌は歯噛みする。魏徴なる者は幇の者である。彼はあざだらけの痛ましい顔をしかめて、黙り込んでいる。が、口から血を垂らし出したかと思えば。一気に吐血し。

「お、お、お……」

 と、呻いて白目を剥いた。

「なんだ?」

 首根っこを押さえていた兵は様子がおかしくなった魏徴の頬をはたいたが、反応はない。

「こいつ、死んだぞ!」

 忌々しそうに死骸を放り投げた。いつのまにか毒を口に含んで、観念して自害したようだ。散々殴る蹴るされ、捕らえられるさなかに誰にも気づかれずに毒を含むのもまた、手練れでなければ出来ぬ業ではあるが。

 手練れでありながら、自殺せざるを得なかったのは、なぜか。それは、この七星剣の女のせいか。

(万一のために自害用の毒を構えておけと教えておったが)

 魏徴は教えられた通り、万一の事態で服毒自殺をした。

「こんな時に自殺が出来るとは。やはり没有幇の者は度胸があるな」

 隊長らしき兵は魏徴の死骸を眺めて感心する。

 貴志は言葉もなく口をつぐみ。香澄は静かに首を横に振り。リオンとマリーは貴志の後ろで、見ていられないと顔を背ける。

省欣殿しょうきんどの、それよりこやつらを」

「おう。任せた!」

 隊長、省欣に任せたとい言われるや。穆蘭はそれを合図に七星剣を振るって、襲い掛かって来た。しかしそれを香澄が同じ七星剣をもってして、立ちはだかる。

 火花が散る。

 それを合図にするように、鉄甲の兵らが襲い掛かってくる。

「是非もない!」

 馬豪も演技をやめ、襲い来る刃をかわしながら掌や脚で払う。宋巌も同じようにする。が、若い衆は本当にただの貧民窟の貧困な若者で武芸の心得はなく、哀れ襲い来る刃にどうすることもできず、斬り殺されてしまう有様。

 貴志も助けてやりたかったが、向こうは数を頼みに襲い掛かり。リオンとマリーを守りながら、自分も守らねばならなかったので、若い衆にまで手が回らず。心の中で詫びて冥福を祈るしかなかった。

 香澄は穆蘭と七星剣を数合交えた。互いに技量は拮抗して、すぐに決着はつきそうになく。咄嗟に間合いを取って、身構えながら睨み合って対峙する。

 リオンとマリーは武芸の心得はないので、貴志に守ってもらうしかなかった。襲い来る兵の中には、

「年増だが嬲り甲斐がありそうな女だな」

 などといやらしい視線をあらわにマリーを眺める者もあった。

 背筋が寒くなる不快感を覚えながらも、所詮は貴志に託すしかない己の弱さや儚さを禁じ得ないマリーであった。

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