打敗女王
どうせ行く当てもない。自作の世界の中と言っても、自由に振る舞えるわけでもなし。結局どこかの世話にならざるを得ない。それなら、義侠心ある組織である没有幇の世話になるしかなかった。
貴志のくわだては、上手くいったと思っていいだろう。しかしもちろんただではない。共闘とせねなばらない。
どうすればいいのかわからないが。没有幇とともに刹嬉と戦う中で、行く先も見えてくるであろう。
それに……。
(穆蘭は今どこで何をしているんだろう)
変な誤解をされて離れられてしまった。
それにあの暗殺集団。あれも設定にないものだ。さらに、四頭山派はいずこに。
「率直に問う。何か良い案はあるか?」
「はあ」
さすがに即答は出来ない。どのようにして宮中に潜り込むかは、まだきまっていない。ぼんやりと、宮中に忍び込んで刹嬉と対決、と考えていただけだ。
リオンとマリーは無駄口を叩かない。香澄も瞑想しているように静か。
しかし視線は貴志に向けられている。
「どなたか宮中に忍び込んでいますか?」
「うむ。それじゃ、とりあえず宦官をひとり買収して。幇の者をひとりそいつを介して忍ばせておる」
「宦官の名は、孫威という。幇の者は、魯真という」
宋巌が名を口にし、貴志は思わず変な声が出そうだった。この時代の詩人、孫威は宦官だったとは!
孫威は名と詩のみが伝わって、詳しいことはわかっていない。謎の詩人だったが。まさか宦官だったとは。と、真面目に考えていいのだろうか。なにせしっちゃかめっちゃかにされた貴志の空想世界である。
とりあえず平静を装い孫威について問う。
「その孫威なる宦官は、どのような容姿でいかなる性格でしょうか」
「うむ、まだ二十歳の若者で、やせ型。根は真面目で、宮仕えをしながら刹嬉の悪政を憂えておる」
「金は要らんと言ったが。無理矢理受け取らせた」
「なんとまあ」
おもわず変な声が出た。そうそう肝心なことをまだ聞けてない。
「趣味はおわかりか?」
「うむ。詩作を嗜んでおる。詩を短冊に書いては、同僚に見せておると。我らに対しても詩を創ってもらったかのう」
馬豪はそう言い、その詩を思い起こす。
女王變成烈日 渇人們
國王成了大水 沖走了人們
我們發戴天災
(女王は灼熱の太陽となって、人を渇かし。
王は大水となって、人を流し去り。
我々は天災を戴く。)
なんとも率直な詩である。
しかも世に伝えられるものと逆のものである。
「お前さんが書いたのとは逆じゃな。まあ、これを短冊に書いて魯真に渡してくれたのじゃが。見つかるとまずいからのう、燃やした」




