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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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打敗女王

「何があるの?」

 リオンとマリーは何から何まで知っているわけではなく、これを不思議に思いながら貴志に続き。香澄は静かに微笑む。

 しばらく歩けば、裏通りの貧困層向けのぼろ食堂に着き。その瞬間異臭を覚えたが、こらえて。老人とともに中に入る。

 中の食堂では、老若男女さまざまな市井の最下層の貧困層らしき者がたむろしていた。

 皆ぼろ布のようなかろうじて服と呼べるものを身にまとい、身体もどこかくすみ、目も光がない。それらは貴志らには無関心そうに、ぱっと見でも美味しくなさそうな食事を口に運んで、命をどうにかつなごうとしている。

 老人と同じような家なき人もいるであろう。

 さすがに貴志は緊張をおぼえた。

(ああ、源龍が言うように僕はやっぱりいいところのお坊ちゃまだ)

 ともあれ店の主が、

「どうしたんだね。後ろの人は?」

 と、声をかける。家なき人の老人と顔見知りのようであるが。

「このお方が服を恵んでくれると。小鳥も隠れられるところに入れてくれんかね」

「……わかった」

 主は店を若い衆に任せ、五人を案内して奥にゆく。奥は主が生活をしているらしいぼろ部屋である。皆中に入り、扉を閉めて。

 右手に階段が見える。この食堂は二階建てで、上の階へゆく階段だ。皆でそれを上がる。

 二回もやはり板敷の簡素なぼろ部屋だった。窓はない。主は手際よく燭台に火を灯す。

 部屋の中に、一気に殺気が迸る。その殺気は、家なき人の老人と、主から発せられていた。

「お前、幇の者か。初めて見る顔だが」

 などと老人は言う。言うまでもなく貴志らを怪しんでいる。主も鋭い目つきだ。それはまことの貧者には出せぬ雰囲気である。

 幇、とは組織のことを言うのだが。

 貴志は跪き、包拳礼をし一礼をする。他の三人に目配せし、自分に続くよううながせば。マリーとリオン、香澄も同じように跪き包拳礼をする。

「私は白羅ペクラ出身の、李貴志と申します。ゆえあって素性は明かせませんが、当てもない旅をしていますが旅の途中であれこれお聞きし。馬豪さま率いる没有幇(持たざる組織)を慕うようになった者です」

「ほう……」

 老人と主の殺気はますます鋭くなる。特に貴志が没有幇と口にしてから。

「どちらが馬豪か、わかるか」

「はい。馬豪様と思ったからこそお声を掛けさせてもらった次第です」

 路地裏の隅でしゃがみこんでいた家なき人の老人が、馬豪であった。貴志は改めて一礼をする。

「どこで合言葉を知ったのか。そこまでわかっておったか。しかも白羅の出か」

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