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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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打敗女王

 決まった。相手はよろける。が、咄嗟に他の者が支えて貴志から逃げる。

 マリーとリオンは身を寄せ合って香澄の背中に隠れるしかなかった。

 黒装束の一団は十名ほどだろうか。何も言わず黒い風のように駆け去ってゆく。

 貴志や香澄を手練れだと認識しつつ、統制も取れ無駄な争いを避け、しかも危機に遭った仲間も助けるあたり、ただの賊徒ではない。訓練された玄人の集団であることは想像に難くない。

 周辺はざわついて野次馬も集まったが、屋敷は静かだった。

「まさか……」

 貴志は意を決して中に入ってみれば、門番の老人の惨殺された酷い姿が横たわる。心の中で冥福を祈り、さらに中に入ってみれば。

 死体、死体、死体と。死体ばかりの地獄がつくられていた。

 燭台を手に屋敷の中に踏み込み、主が食事をしていた居間においては、やはりというか、主までもが惨殺されていた。

 卓はひっくり返されて、食事もばらまかれて。しかし、灯火を灯す燭台はそのまま。その火で放火をすることも可能だが、しなかったようだ。

(散々暴れたようだけど、燭台は無事。人を殺しながら細心の注意も払える。これは本当に訓練された暗殺集団だ)

 貴志は肝が寒くなる思いだった。どうやらこの世界は打敗女王の設定どおり、刹嬉は悪者で、暗殺集団は刹嬉ご用達の者たちか。

 あれこれと考えられるが、もう屋敷にはいられない。あまりにも惨たらしいことになって、その心痛も大きくなるばかり。罪なき者が理不尽に殺されるのは、耐えがたい。

 途中燭台をもうひとつ取って、両手に持ち、貴志は屋敷から出て。外で待っていた三人と顔を見合わせ。首を横に振った。

「この集落を出よう」

 と言った途端、

「あ、お役人さまじゃ!」

 という声が聞こえる。

 松明を掲げて、十名ほどの兵を率いてこの集落を治めているらしき役人風情の男が厳しい顔つきをしてこちらにやってくる。

「庄屋が殺されたとな。誰の手によるものだ!」

「こいつらです!」

 なんと、集落の者らは一斉に貴志や香澄、マリーとリオンらを指差した。

「そんな、僕らはやってないよ!」

 リオンは驚いて反論するが、

「黙れ、お前らたちがあの下手人どもを招き入れたんだろう!」

 などと言われる。あの連中は堂々と人前に姿を現した。しかし貴志や香澄らにも襲い掛かったのも見ているはずなのに。

「おそらく奴らの一味が野次馬に紛れているでしょう。兎にも角にも、ここは逃げましょう」

 貴志は素早く判断して駆け出し、兵らに迫る。香澄も続く。

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