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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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打敗女王

「そうだね、腹が減っては戦は出来ぬ、ってね」

 リオンも同調する。しかしマリーと李貴志イ・フィチは何も言わない。いかに危機的状況にあるとはいえ、人から食をかすめ取るような真似はできかねた。

 そして、穆蘭ぼくらんは。

「そんな、なんて卑しい!」

 ついに貴志の手を振り払って、七星剣を抜いた。

 灯火の光を受けてこの七星剣も、きらりと光ったように見え。少女剣士は互いに対峙した。

「いくらお腹が空いたといっても、こんな忘恩の輩から食を恵んでもらうなんて、私は死んでもいやです!」

 烈しい火花散るかのような眼光で貴志たちを見据える。

「私たちは所詮江湖をさまよう身分でも、匪賊じゃない」

「穆蘭」

「私の名を呼ばないで!」

 あれほどお兄さまと慕っていた貴志を、憤怒の表情で睨み据える。

「お兄さまには失望いたしました」

 言うや反転し、風のように駆け去ってゆく。止める間もない。

 はっとして貴志は香澄こうちょうを見る。

「香澄ちゃん、穆蘭を試したね」

「ごめんなさい。そうよ」

 ぺろりと、いたずらっぽく舌を出し笑顔で誤魔化す。

 それにしても、香澄も意地悪だが、他の者の意見を聞く前から勝手に自分の中で話を進めて、勝手に貴志に失望する穆蘭には、言葉もなかった。

 なんとも早とちりなことか。

「僕も穆蘭と同意見だったんだけどな。まったく」

「まあまあ、過ぎたことは仕方がないよ。これからどうしようか」

「そうね、こうなったらここでお世話になれないわね」

「行こうか、ここにいても仕方がない」

 意見がまとまると、香澄は七星剣を鞘に納め、貴志は主を見据える。

「ご主人、どのような事情がおありなのかは知らぬが、かくなる上は僕らもおいとまさせていただきます」

 言うや、四人そろって踵を返して屋敷から出てゆく。言うまでもない、外は暗い。しかし空には満月が浮かんで月光がほのかながら下界を照らし。まったく視界がないわけでもなかった。

 これも天の助けと、四人は屋敷を出て、集落から出るために歩を進める。という時、悲鳴がしたかと思えば、背中に人々がざわめくのを感じて。止まって。振り返ってみれば。

「お屋敷に賊!」

「皆殺しだ!」

 などと、物騒なことも聞こえる。

 四人、一瞬顔を見合わせて、屋敷の門前に駆け戻ってみれば。途端に黒装束の集団が飛び出てくる。顔も隠している。しかも短剣を逆手に持って。それが襲い掛かってくる。

 それだけではない、暗器(飛び道具)の匕首あいくちも飛んでくる。

 香澄は七星剣を咄嗟に抜き放ち、飛んでくる匕首を打ち払い。貴志は迫る刃をかわし。咄嗟に足を振り上げ、ひとりの頭上にかかと落としを食らわす。

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