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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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打敗女王

「本当だ」

「やばいよ、ここ」

 リオンが小声で言う。やばいとは、どうやばいのだろうか。

「……。まさか、ここの人たちが、刹嬉とつながっている?」

 まさかと穆蘭は小声でささやく。貴志はそれを聞いて、自分が打敗女王の世界に行かされた確信を持った。ただし違うところも多分にあるようだが。

「恩知らず!」

 突然、穆蘭は叫んだ。

「刹嬉の暴政に苦しんでいるのを助けてあげたのに!」

 七星剣を押っ取り部屋を出ようとしたのを貴志は素早くその手を掴んで止めた。

「やめなさい、無駄な殺生はいけない」

「でも」

「でもじゃない!」

 貴志は敢えて厳しい口調で言った。穆蘭の手を掴む力もいっそう込めた。

 女性の手を掴むようなこともしたくなかったが、血気に逸り無駄な殺生をさせないためには、やむをえなかった。

(でも、穆蘭がこんな乱暴な性格だなんて)

 原作の穆蘭は義に厚くけっして乱暴を働かない良い女侠として描いているのだが。何が彼女をそうさせたのか。

 気が付けば、香澄とマリーも、貴志と穆蘭の部屋の前で立っていた。リオンははらはらしていたが、香澄に気付いて素早くそのそばまで駆け寄った。

 穆蘭は香澄に気付くと、きっときつく睨み付ける。

「……」

 貴志は、ふう、とため息をつくと。

「ご主人のところにゆこう」

 と穆蘭の手を引いて歩き出した。穆蘭は七星剣を持ち換えて、貴志の手を振り払うこともなく黙って握られるがままだった。その顔を見れば、まんざらでもなさそうだった。

 そばにいた召使いに案内してもらって、主のいるところまで来てみる。居間で食事だった。

 五人が来たのを見て、目を丸くして驚いていた。

「……。これは、どうしました」

 五人が来るのみならず、貴志が穆蘭の手を掴んでいて。しかも殺気立っており。これはただ事ではないと主もさすがに察した。

(ばれた)

 主は肝が心底冷える思いだった。

「お前!」

 穆蘭は主を睨んで叫んだ。

「恩知らずにも、私たちを刹嬉に売ろうとしたな!」

「な、何の話ですか」

「とぼけるな、食事に毒を盛っていただろう」

「まさか、大恩ある穆蘭様になんでそんなことを」

 周囲の召使いや従者もこの様子に肝を冷やし、震えながら成り行きを見守るしかなかった。

「……」

 貴志も香澄もマリーもリオンも黙って成り行きを見ていたが。香澄が卓に大盛に盛られた主の食事を見据えて。

「不本意だけど、これをいただきましょう」

 と、突然七星剣を抜いて言う。

 夜闇の中、各所の燭台が灯火を灯し、この世にあるものたちを闇から掬い出す中。七星剣の剣身、および埋め込まれた七つの紫の珠が、灯火の光を受けてきらりと光ったように見えた。

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