捏的測験
この本を役人に教えて、捜査してもらわなければ。と思いながら卓に置いたとき。
「この、鳳凰には別名があるようだね。わかるかい?」
子どもが不意に口を開いた。
「え、鳳凰の別名?」
「いやな予感がするんだが」
源龍はまゆをしかめ。羅彩女は木剣を握りしめて源龍のそば、ぴったりとくっつく。
(あれ、ふたりはそんな仲?)
ふと気になる。
しかし、子どもが得意げに鳳凰の別名がなんたらとか口走って。貴志もなにか身構えざるを得ないものをおぼえた。
周囲を漂う鬼たちは人間の心配など気にすることなく、相変わらずふわふわしている。
「あれ?」
ふと、身が軽いと思うと。なんと、あろうことか、自分の手がだんだんと薄くなってきている。自分そのものが、薄くなっていている。
徐々に我が身が薄まり、透き通るように消えてゆく。
「本だ。本に吸い込まれている!」
なんと我が身は薄まり、透き通り、煙のようになってきていると思えば。煙のような我が身が、本に吸い込まれている。
本はひとりでに開いて、しゅううと聞こえそうなほどに、煙となった我が身を吸い込んでいる。それに伴い、意識も朦朧とする。
「これは夢か。こんなことが」
「結局はこうなるのかよ」
「あ、思い出した!」
貴志は自分が煙になり、本に吸い込まれる中、これまでのことを、夢の中なのかどうなのかわからないがどたばたを、こんな時に思い出した。
やがて意識は朦朧として、抗いきれずに深い眠りにつくように、ぷっつりと意識を失った。
「ここは」
煙になって本に吸い込まれた面々が目覚めると。
源龍は黒い鎧に身をまとって、得物の硬鞭・打龍鞭をもち。
香澄は紫の可憐な衣をまといさながら天女のようであったが、腰には剣を佩き。それを抜けば、剣身に七つの球を埋めた七星剣。
羅彩女は燃えるような赤い衣をまとい、まさに江湖の女侠客の風格を醸し出し。手には桃の木剣を握る。
貴志といえば、普段着のままで、手には筆一本。
世界樹の子どもも、辰の子ども服のまま。
あたりは真っ暗、それぞれきょろきょろして、互いを見合わせ、これからどうなるのかと警戒する。
「皆用意は整った。次に進む」
どこからともなく声がする。その声が世界樹の声だとなぜか認識できた。
やがて真っ暗闇に呑まれて、意識もぷっつりと失って。
「お逃げを、皇帝、皇后!」
けたたましい人々の叫び声が、こだまする。
次に目覚めたところは。
「ここは、辰の宮殿だ!」
貴志は周囲を見て叫んだ。入ったことはないが、どのようなものなのか、絵を見せてもらったことはあった。




