打敗女王
で、半島は白羅時代だが、服装はまだ暁星と違うものだ。主がいぶかしむのも無理はない。
そして案の定というか、主は香澄とマリーに変な視線を送る。この主の様子を見るに、ここら辺の地域性は柄が悪目のようである。
逆に穆蘭には決してせぬ目つきである。それだけ彼女は恐れられているということだ。
「すみません、ゆえあって素性を明かせません。お許しを」
香澄は機転を利かせて、一礼しながらそう言う。貴志も、そうなんです、と言えば。
「そうよ、野暮なことをお聞きでないよ」
と、穆蘭も助け船を出し。主も余計な詮索はせずに、はいと頷く。
「お前は余計なことをせず、食事と休める部屋を用意すればいいの」
「わかりました」
主は休める部屋の用意と食事の支度を召使いに命じた。
「申し訳ないけど、僕は食欲がなくて」
貴志は部屋で休みたいと申し出る。主ははいと言い。穆蘭は心配そうにする。
大きな屋敷だから来客用の部屋はあり。丁度召使いが部屋の用意が出来たと言ってきたので、それではと案内してもらった。
主は、
「私はこの辺で失礼します。何かあればお言いつけください」
と引き下がっていった。
部屋に案内されれば、貴志と穆蘭、香澄とマリーにリオン、という風に分かれて部屋が割り当てられた。
貴志は驚き、目を丸くする。
「僕と君が同室だって!」
「いいではありませんか、決してお休みの邪魔はいたしませんわ」
穆蘭は嬉しそうに貴志の手を引き、部屋に飛び込んでしまった。後に残された香澄とマリーとリオンは、互いに顔を見合わせて苦笑しながら、部屋に入った。
部屋は簡素で片方の壁に二段の寝台、向かいの壁沿いにひとつ寝台のみというものだった。真ん中に人の腰の高さの燭台が据えられ、細々と灯火を灯している。
片田舎ことでもあり、贅沢は言えないとこれを苦笑しつつも受け入れて。リオンは二段の寝台の二段目に飛び乗った。その下に香澄が腰掛け、七星剣を横たえる。マリーは向かいの寝台に腰掛ける。
「世界樹も罪作りなことをするねえ」
上の寝台から顔を覗かせて香澄とマリーを見下ろしながら言う。
「また貴志さんの小説の世界に行くなんて」
「そうね。でも、この世界には何か尋常ではないものを感じるわ」
香澄は立ち上がって、窓を開け外を眺めるが。もう陽は落ちて暗くなり。月が太陽に替わって空にのぼり、月光をほのかに地上に降り注いでいた。
月光に加え、我が目を凝らして外の様子が見えて。薄汚れた壁は高く、広い景色は拝めない。




