打敗女王
人の姿もあり、森から抜けた五人に目を向け。穆蘭を見つけると、
「や、穆蘭様だ!」
と、人々は突然跪くから、貴志は呆気に取られた。香澄らは平静だった。
「ちょっと待ってくださいね」
穆蘭はそう言うと、数件ある民家のうち一番大きな家の門扉の前に立つと。
「開けて、私よ!」
などと言えば、内から召使いらしき者が、はいはいと門を開ける。
まるで当然のことのように穆蘭も召使いも互いに顔を見合わせる。
「これは穆蘭様、こんな時間にどうなされました」
「お客様がいるの。泊めてあげて」
召使いらしき老人は香澄らに目をやる。さすがにいぶかしそうな顔つきになる。
「はいはい。でも私だけでは勝手に決めれませんから、主に問うてきます」
「そんな必要はないわ!」
そう言うと穆蘭門から貴志のもとまで駆け寄り、その手を取って。ずかずかと門をくぐろうとするではないか。
「え、ちょ、ちょっと」
「あ、穆蘭様」
貴志も召使いも困った顔をするが、穆蘭は関係ないとどんどん家の中に入ってゆく。他の召使いたちもいて、穆蘭にやや驚いた表情を見せ。
異変に気付いたこの家の主、豪奢な身なりをした成金風情の恰幅のよい中年男が飛んできて、
「これは穆蘭様、どうなされた」
と、愛想よい笑みを浮かべる。
「ゆえあってこの人と、そのお友達をこの家に泊めてあげてほしいの」
穆蘭は貴志を紹介し、外にまだ三人いることを告げる。
「いいですよ。ここで立ち話もなんですので、こちらへ」
うやうやしく主自ら案内し、円卓の置かれた部屋に通され、椅子に座る。丁度その時、香澄とマリー、リオンが案内されてやってきて、椅子に腰かける。
貴志の左隣には当然のように穆蘭が座り。右隣にはなぜかリオンが指名され。あとは思い思いに座る。
貴志はこの展開にも頭がついてゆけずに目を丸くしつつ、成り行きに任せるしかないのかと半ば観念する。
「お兄さま、心配しないで。ここら辺は私の所領だから」
「所領!」
思わず変な声が出た。
ここら辺は穆蘭の所領なのだという。集落の人々が穆蘭の存在をいぶかしまないどころこか、集落の長までもがうやうやしいのはそのためだという。
茶か運ばれ、それぞれの前に置かれる。
陽も傾き暗くなりつつあり、燭台に灯火が灯される。
「お客様方は旅のお人ですか。見慣れぬ服を着ておりますが」
主は訊ねる。
貴志らは暁星の服のままである。で、ここが鋼鉄姑娘の舞台世界なら、大陸の戦国時代で、北の大河・京河の大きくうねる中流域にある地域で。四頭山はそこにあるという設定だ。




