打敗女王
命は命としか共鳴できないのだと、貴志は感慨を覚えた。
しばらくすれば木々が見えてきて、森の中に入った。小さな羽虫どころか様々な鳥の鳴き声もし、ふと狐や栗鼠、小鼠などの小動物も目にするようになってくる。
勾配もゆるくなり、マリーとリオンも下ろされて自分の足で歩くようになり。誰か人はいないかと注意を払う。
しかし危機はある。
「熊や虎に出くわさなきゃいいけど」
「その時は、私が仕留めて差し上げますわ」
貴志の心配の声に、穆蘭は得意げにそう応える。
「私が七星剣をひと振りすれば、さしもの虎や熊、狼だって」
「う、うん。その時は頼みます」
「そんな言い方はよして、お兄さま」
「え?」
「頼む、と言ってください。私にへりくだったものの言い方をする必要はありませんわ」
「え、いやいや、会って間もないし、いきなりそんな」
「いいえ、お兄さまはお兄さまでいてください」
「……」
貴志は何も言えなかった。まさか穆蘭がそんな態度をとり、そんなことを要求するだなんて。
香澄とマリー、リオンはそれを微笑ましく眺めている。
(一体こりゃあなんだあ?)
自分の創作した世界に放り込まれて、自作の登場人物に変に慕われて、接し方に注文をつけられるなんて。早くもしっちゃかめっちゃかな思いを禁じえないが、これからもっとしっちゃかめっちゃかなことになると思うと憂鬱な気持ちにさせられるというものだった。
「わかったよ。その時は、頼む」
「はい」
穆蘭は顔をぱっと輝かせて、溌溂と返事をした。貴志はなんだかいたたまれない気持ちだった。
(女の子に慕われてるのに、変に重荷に感じるなんて)
貴志は異性愛者の男で、女性にもてたらやはり嬉しい。が、どうにも穆蘭に対して素直に喜べない。
小説で穆蘭を描いているときは、胸をわくわくさせて作中で活躍させていたのに。これはどうであろう。
しかも香澄と瓜二つ。双子かと思うが、そういうわけでもなく。なぜそっくりなのか、何の説明もなく、怒涛の勢いで一緒に下山する展開になった。もしこれが、読んでいる小説の中での展開なら。この作者はなんて下手なものを書くんだろうと、呆れて読むのをやめるところだ。
しかし自分は今そんな下手な小説の中に放り込まれた状態である。
(世界樹は僕に何をさせたいだろう)
疑問はふくらむばかり。
そんな貴志をよそに、穆蘭はちゃっかり隣にいて。うきうき顔で並んで歩き。他の三人は、距離を置いて後ろに続く。
陽もだいぶ傾き、森の中ゆえにあたりは薄暗くなり、視界も閉ざされようという時、森を抜け。茜色の空が視界に入り、同時に民家が数件見える。ふもとの集落に辿り着いたようだ。




