打敗女王
人狼に画皮といった人外の妖魔が、維新という言葉を振りかざして人をたぶらかして、徒に世を乱したのである。そこに設定に入れていない反魂玉だの反魂術だの、屍魔だのも出てきて。
もう、しっちゃかめっちゃかだった。
どうなることかと心配はあるが、この不毛の岩山にいても仕方がない。意を決して、貴志は下山することした。が、リオンとマリーが困ったように愛想笑いをしている。
「あのう、僕らの脚じゃ下山に耐えられないから、助けてほしいなあ、と」
「私も、申し訳ないのだけれど……」
「え?」
貴志は呆気に取られ、香澄は微笑する。穆蘭は、そんなの知らないとばかりにそっぽを向く。
「じゃあなんで山に登ったのよ」
「いやあ、それは話すのは難しいなあ」
リオンはそう言いながら苦笑する。
「仕方がないわね」
香澄はリオンを抱き上げる。担いで下りようというのだ。で、マリーはといえば。変に貴志と目が合う。
「……、仕方がありません。失礼します」
やむなく貴志はマリーを抱き上げる。抱き上げられて、首に手を回す。
「すいません」
「いえいえ。まあ、それでは行きますよ」
貴志は地を蹴り下山をはじめ、それに香澄と穆蘭も並ぶ。
思ったより急斜面で、下手をすれば足を滑らせて滑落しそうだ。慎重に、慌てず足の踏み場を見極めながら、三人は軽く跳躍しながら斜面を駆け下る。
この山はほんとうに岩石の塊の岩山で、岩盤剥き出しで草一本もない。だから生き物も寄り付かない不毛の岩山である。
よくそんな山が出来たものだと、変な感心も禁じ得なかった。
しかし、設定ではこの岩山を拠点に四頭山派という流派が出来たことになっているが、それらはいなかった。ということは、先の北娯の騒乱の時と同じように、しっちゃかめっちゃかな展開が待ち受けているであろうことは想像に難くない。
(っていうか、視線が痛いなあ)
穆蘭はじっとこちらを睨みつけている。何を思っているのか。別に貴志とマリーはそんな仲ではない。仕方なくのことなのに。
(って言うか。えッ!?)
ふと、貴志の心にひやりと、氷が滑り落ちたような感触。
それを無理矢理無視し、山を下る。
いかに三人に脚力があるといっても無尽蔵ではない。時折よい場所を見つけて、抱える者を下ろして休憩もした。
やがては草を目にするようになり、それにともない小さな羽虫も目にするようになり。一見たわいもないような小さな命でも、不毛の岩山から下りたうえで見ると、心に安らぎを覚えるものであった。




