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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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打敗女王

 言われて貴志は、わかりましたと、手を引かれるままに任せるしかなかった。

(……)

 貴志は今の気持ちをうまく言葉にできない。こんなに長く女性に手を引かれるなどと言う経験は初めてであった。

 香澄とリオンは顔を見合わせて微笑み合う。

 やがて、霧も徐々に晴れてきて。周囲も見渡せるようになってきた。すると、マリーは歩を止めて、香澄とリオンも止まる。

「ここは」

 貴志はきょろきょろ周囲を見渡して、ここは、とまたつぶやく。

 なんと、自分たちは高い高い岩山の上にいるではないか。眼下に雲海が広がり、雲海に浮かぶ小さな島のようにごつごつした岩石の大塊の岩山が頭頂部を突き出していて、自分たち四人はその上にいるのだ。

 その雲海に浮かぶ島のような岩山の頂上は、ほかに三つ。

「これは、四頭山か」

 四頭山とは、読んで字のごとく、四つの山が尾根でつながり高くそびえる様がまるで頭が四つあるように見えることからできた名前であり。雲海広がるときには、まるで頭が四つ雲から突き出る様を見ることが出来る。

 この山は実在しない。ではこの山はどこにある山なのかというと。

「また、鋼鉄姑娘の世界か!」

 貴志は茫然とした。

 四頭山は草木も生えぬ不毛な岩山で、その山にいつく者はいなかった。が、それをよいことにかたぎでない者がいついた。その者らは江湖をさすらう侠客で、世間とは一線を引いた生き方をし。

 また武芸にも秀で、特に腕に覚えのある者は流派をつくることもあるが。この四頭山にいついた武芸者たちは、自らを四頭山派と名乗った。

 そしてこの四頭山の頭はうまい具合に東西南北に位置し、それぞれ東山、西山、南山、北山と名付けられ。高い順に並べれば、南山、東山、西山、北山といった具合であり。

 四頭山派の主だった者らは一番高く他の山を見下ろせる南山にいついて、序列に従いいつく山が決まる。

 ふと、そんな設定が脳裏を駆け巡った。

 自分たちはまさに一番高い南山にいて、他の三つの頂上を見下ろしている。

 しかし、まさに雲海に浮かぶ島々という様相を呈し。その再現度の高さに貴志は度肝を抜かれる思いだった。

 そして、人はいない。

 周囲を見渡し誰かいないかと探しても誰もおらず。鳥はおろか虫一匹もいない。ただ岩盤の硬い感触を靴底越しに感じるのみ。

「この山に……」

「江湖の四頭山派の武芸者たちがいるはずなのに」

 貴志の言葉を香澄が継いで、悪戯っぽく微笑み舌も出す。

 その愛嬌さに苦笑しつつ、うんと頷く。この者らは何もかもお見通しのようで、抵抗など無駄に思えた。

「お兄さま!」 

 不意にそんな声がして、驚いて声のした方に目をやれば。

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