打敗女王
さて、李貴志と香澄にリオン、そしてマリーである。
この四人は濃い霧の中で立ちすくんでいた。
「これは」
特に貴志は戸惑い、あたりをきょろきょろする。この展開は、まさか、と。そう、世界樹の思し召しによってどこかに行かされようと言うのである。
しかも。他の者らとは別々に。これは初めての事だった。
不意に手を取られる。
はっとすれば、そばにはマリー。貴志の目を見つめて微笑む。
戸惑っていたとはいえ、気配を感じられなかったことに驚きを禁じ得なかった。彼女は武芸の心得はないはずだ。
「さあ、ゆきましょう」
戸惑う貴志などお構いなさそうに微笑み、その手を引いてマリーは歩き出し。香澄とリオンも、互いに視線を交わして頷き合って、そのあとに続いた。
この強引な展開に戸惑いは深まるが、ふと、マリーに戻る前の、世界樹の子どもだった頃を思い出す。
飄々として済ませたところがあって、「そんなことは、どうだっていいじゃないか」と簡単に言ったりした。
貴志の様子などお構いなく手を引き歩き出すその強引さが、そんな子どもだった頃を思い出させた。
何ゆえにマリーは娘と離れ離れになり、子どもに戻されて、香澄とともに貴志や源龍、羅彩女らと出会うことになったのであろうか。
それは話されるのかどうかわからないし、もしかしたら話してもらえず秘密のままにされるかもしれない。が、話されたところで何になるだろうか。
それこそ、
「そんなことは、どうだっていいじゃないか」
と言いそうである。
などなど、その手の感触を感じながら貴志は考えた。
(っていうか、また虎碧ちゃんと離れたんだけど、いいのかな)
ふと、そんな心配も起こる。どうせ縁がないのだと、ふてくされて虎碧の方からマリーと離れてしまうこともありうる。
香澄とリオンは何も言わずに黙って微笑み、とことこ霧の中を歩く。
歩く、歩く、歩く。
どれくらい歩いただろう、この濃い霧の中を。ゆけどもゆけども、いまだ霧の中で、まさに五里霧中。
しかも、長く歩いたのに、疲れない。ふわふわとまるで自身が羽毛になったかのように身が軽く感じて、夢の中にいるようでもあった。
しかし不安はない。
身も心も軽やかにして、安堵感が胸中に広がり。春霞のように暖かに心臓を包むようであった。
それはマリーに手を握られているというのもあり、照れくささも禁じ得ない。
「あの、もういいですよ。自分で歩きます」
「でも」
マリーは微笑んで言う。
「ここで手を離したら貴志さんは迷子になって、帰れなくなりますよ」
なかなかに怖いことを言い、手を離さない。




