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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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走向継続

「貴志がいない!」

「お母さんとリオン君に、阿澄もいなくなっちゃった!」

 なんと、貴志とマリーと香澄とリオンが、忽然と姿を消したのであった。

 朝になり、一番最初に起きた源龍は寝ずの番に教えてもらって浴場の井戸の水で酒の残り酔いと眠気を流し。同時に召使いたちも起きて、朝の支度をし出して。営みの音が朝日が昇ると同時にし出して。

 そこから順次、他の面々も起き出して。身体を流し終えた源龍が部屋に戻ってみれば。いない、いない、と騒ぎになっていた。

 あのおとなしい性格の虎碧が珍しくうろたえていた。

「どこに行っちゃったのかしら?」

 と、涙こそ流していなかったが、今にも泣きだしそうだ。やっと母と再会できたと思ったのに。昨夜は皆とチゲを囲んで楽しく食事できたのに。

 報告を受け、顔を真っ青にした志明がすっ飛んでくる。

「貴志がいないとは、どういうことだ!」

 と問うが。

「さあね」

 と源龍は素っ気ない。

 羅彩女と龍玉は顔を見合わせて、

「世界樹の仕業ね」

 と苦笑し合う。

 志明は、以前の光善寺でのことを思い出す。あの、目の前で人が消えていった、人知を超えた現象を。それがまた起きたということか。

 もう魂消たとしか言いようのない志明の顔の青ざめっぷりであった。

 虎碧もまた同じようになっていた。が、その肩に龍玉が手を添える。

「まあ大丈夫だよ、また会えるよ」

「……うん」

 世界樹の仕業というのは虎碧も察しがついていた。しかしそれにしても、世界樹もなかなかにひどいことをするものだと思わざるを得なかった。

「さて、どこに行かされたのか」

 源龍は苦笑交じりに言う。

「お、オレはどうすればいい?」

 他の者は知らず、貴志までいなくなったとあればいよいよ大事だ。都に向けて早馬は出してある。到着予定者から不意の欠員が出たと、しかも欠員の中に貴志がいると、どう父と王に報告すればよいのか。

 己の不手際を責められると思うと、生きた心地はしなかった。

「ああ、もう、仕方がないねえ!」

 龍玉は見かねたように、志明の目の前まで来て、鼻先を突き合わせるところまで顔を真正面から近づける。

「なんかあったら、あたしらが守ってやるよ!」

「ま、守るだと!?」

 志明は迫られて、思わずのけぞった。虎碧は苦笑し、まあまあ、と引き離した。

 源龍と羅彩女は、ぶっ、と噴き出しそうなのを慌てて止めて。笑いを堪える。

「なんなら、あたしらと一緒に、逃げるかい?」

 挑むような、誘うような、妖気をたっぷり含んだ顔つきで龍玉は志明を見つめる。そんな顔で見つめられれば、たいていの男どもはころりと落ちてしまいそうである。 

「む、むうう」

 志明は唸った。他の者はいざ知らず、欠員の中に貴志がいるのだ。ともすれば李家全体の問題になってしまう危険性がある。それを思えば、ふと、逃げたいという誘惑に駆られるのもやむなしではあるが。

「ええい、ままよ!」

 志明は迷いを振り払うように顔を振るって、四人を見据えて、

「都へゆく。呼ぶまで部屋にいろ」

 くるりと背を向け、どかどかと去ってゆく。自身の支度もせねばならない。

 四人は視線を交わして、互いに頷き合い部屋に戻って待機する。


走向継続 終わり

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