捏的測験
餃子は皮はよく焼けてぱりぱり、中はしっとりと口の中で溶けそうな触感で美味しい。
ナムルもほどよい塩辛さでいながらさっぱりし、しゃきしゃき食感で、これも美味しかった。
(って言うか、僕はなんでここにいるんだろう)
ふと、自分がここにいることが疑問に思えてきた。源龍と香澄をもとめてやってきて、目当てのふたりに会え、食事もともにしているのに。なぜか、そう疑問を抱いた。
その理由の一つに、静けさがあった。皆行儀よく食べているが、誰も何も会話を交わさない。子どもも羅彩女も饒舌かと思えば、意外にも静かだった。
その静かさが、変な気まずさをおぼえさせた。
(食事をいただき終わったら、帰ろう)
餃子とナムルをじっくり味わいつつ、それらを食し終わり。他の者も食し終わり。ごちそうさまでした、と手を合わせる。
それじゃあ僕は、これにて。ごちそうさまでした。
と言って、席を立とうと思ったとき。
「そうだ、こんな本があるの」
と、いつの間に持っていたのか。香澄が貴志に本を差し出す。
「え、本?」
生粋の文学好きの貴志は、本と見ればとたんに目をキラキラさせ。香澄が差し出すのを受け取り、開く。
「……?」
それは薄めの本で、字は少なめで主に絵で構成された、絵本だった。いつの間にか子どもが貴志のそばにきて、本を覗きこむ。
しかし、奇妙な絵が描かれている。
表紙は鳳凰が描かれているが、頁をめくれば、その鳳凰が戦場に降り立ち、なんと将兵を食っているではないか。
さらに頁をめくれば、こんどは宮殿にあって、皇帝や皇后に臣下の文武百官を食っているではないか。
「人食い鳳凰!」
なんという奇妙な絵本であろう。鳳凰はめでたい聖獣である。それに人を食わせるなど。どう見てもこの辰帝国の装いの皇帝皇后までもが人食い鳳凰に食われているのである。
クチバシで人をついばみ、くわえて、天を仰いでくわえた人を飲み込む。水田で鷺や鴇が、蛙をくわえて飲み込むかのように、鳳凰は人を飲み込んでいる。
しかも皇帝皇后をである。あまりにも不敬な内容で、慌てて本を閉じる。役人に見つかったら大変だ。
「こんなものを、どこで」
「帰る途中で物売りのおじさんが、面白いと教えてくれて、買ったの」
「ううむ。そのおじさん、ただのおじさんじゃないかもしれない」
反乱分子が裏でこっそりと本をつくり、人に配っているのかもしれない。人々に反皇帝皇后の気概を植え込むために。
本には著者名と製本所のことが記されるものだが、これにはない。あきらかに怪しい。




