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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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走向継続

 が、それでも源龍は知らん顔である。

「ありがとよ」

 マッコリの器が取り替えられたとき、一応愛想よくする。それだけだった。召使いの女性も笑顔で応えて、立ち去ってゆく。それにも目もくれず、帆立を口に放り込み、マッコリで流し込む。

(源龍変なところで無欲だから、余計な嫉妬せずに済むのは助かるわね)

 羅彩女にとっては安堵ものであった。

「よく食べるなあ」

 貴志とリオンは顔を見合わせて、源龍と羅彩女、龍玉の三人に感心する。虎碧とマリーの母子も、顔を見合わせて微笑む。

「楽しいね」

 香澄は微笑んで言う。

「このまま、時が止まってくれたら、ずっと幸せでいられるのに」

「阿澄……」(香澄ちゃん)

 貴志は香澄を見据える。どこかお済ませさんなところがある香澄にしては珍しく感傷的な発言だった。

 源龍と羅彩女は聞こえないふりをしているが、貴志と同じように珍しいと思う。

 香澄にも人間らしいところがあるんだな、と。

 しかし、今はなによりも、目の前の食いもんと酒である。余計な雑念はこの際取り払う。

 ただひたすらに、食った、飲んだ。

 その食いっぷり、飲みっぷりは、召使いたちも目を見張った。変な真似をされないので、安心して目を見張れた。

 そんな召使い衆が、物欲しそうな顔をしていないのを見て、兄はこの者らを大事にしているのがわかった。

 安心して食事をしたいと思えば、まず周囲の人たちを十分に食わせよ、という教えを受けた。貴志の李家は与えることのできる家柄である。

 ともあれ、皆でチゲを囲んでたらふく食って、飲んでして、お腹も心も十分幸せに膨らんだ。

「ごちそうさん」

 源龍も上機嫌で、頬を酒で赤らめていた。それに羅彩女が無遠慮に寄りかかる。しかしそれまでで、それ以上のことはしなかったから、どうにか見ていられた。

 龍玉は虎碧の首に手を回して、

「いやあ、極楽極楽」

 と、これも頬を赤らめて上機嫌で歌うように言った。寄りかかられる虎碧も、少しほろ酔いで機嫌もよく、笑顔で頷き。それを母のマリーと、リオンも笑顔で見つめる。

 貴志も機嫌よく、笑顔で皆を見つめる。

「皆と一緒にいられるって、幸せだね」

 香澄はぽそっとつぶやく。彼女も酒を飲んだはずなのだが、顔色はもとの白面のまま。

「阿澄」

 貴志は香澄が感傷的になっていることを珍しがり、思わずその顔を覗きこんでしまった。

 香澄も笑顔で貴志を見つめ返し。その笑顔を見て、思わず照れから笑って誤魔化し、顔をそむけてしまった。

 食事の終わった一同は、召使いたちに礼を言い。部屋に戻って、ごろんと寝台にころがり。爆睡した。

 その様子を部下から報告を受けた志明は、うむと頷く。

「上手くいったようだな」

 と、ぽそりとつぶやく。この厚遇は、たらふく飲み食いさせれば機嫌もよくなり、おとなしくなって部屋で寝るだろうと思ってのことだった。そしてそれは上手くいった。

 もし源龍が酒を飲んで暴れ出したら貴志が抑えてくれるだろうと、変な期待と信頼もあったから、警備に神経を使わずに済んだ。

「まあ、これで今夜はゆっくり休めるな」

 志明も仕事を終え、寝台に寝転がって寝息を立てた。

 翌朝、騒ぎになった。

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