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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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走向継続

「源龍、彩女さん」

「龍お姉さん」

「はいはい」

 一応、とりあえずなのを隠しもせず、言われたから、源龍と羅彩女、龍玉は志明に「ありがとよ」と簡素に礼を述べた。

(貴志もこんな者たちとよく行動を共にするものだ)

 内心呆れつつも、かまわぬと言い。皆が食事を終えたのを確認すれば、この屋敷の主である地主自身が来て。志明に、そして貴志に目をやり、頭を下げる。

 志明は屋敷の主に、「世話になったな」と簡素ながら礼を述べ。

「召使いたちに何か美味いものでも食わせてやれ」

 と、少ないながら謝礼金を渡した。

 地主は笑顔でそれを受け取る。

「お馬や牛車のご用意ができております」

「うむ。重ねて礼を言う」

 志明や他の数名の部下の馬を預かってもらい。さらに、それなりの人数での旅となるので、地主に頼んで牛車を用意させていたのだ。

「まあ、うれしいじゃないの。お礼にこの女が夜伽するよ」

「ちょっと!」

 喜々として変なことを言う羅彩女に、龍玉は頬を膨らませる。虎碧は苦笑する。

 ともあれ、食事を終えて、外に出てみれば。牛車は二台用意されており。香澄はまた暁星の言葉で庄屋に礼を述べ、他の面々もそれに続いて。

 それぞれ牛車に乗りこむ。

 車は簡素ながら屋根もあり雨風をしのげる造りになっており。中は二人が座れる椅子が向かい合って置かれ。一台に四人乗ることが出来る。

 先頭の車に源龍と羅彩女並んで座り。それと向き合って貴志と香澄。虎碧はマリーと並び、龍玉がそれと向かい合い。その横にリオン。

 志明も愛馬にまたがり。屋敷を発ち、庁舎に向かう。行きは馬を飛ばして急いだが、身柄を確保した今は、慌てずゆっくりとしたものだった。

 一同が漢星まで無事到着すれば、食事と牛車を用意した地主には、さらに謝礼金が与えられる約束であった。

 地主は召使いたちを伴って、志明らを見送った。

 秋の心地よい空気が周囲を包み。雰囲気も至って平和。この世に争いごとや様々に人の心を惑わすようなことがあるなど、にわかには信じられないものだった。

「ゆっくりできる時に、ゆっくりしようじゃないの」

 龍玉は微笑んで言う。尻尾は牛車の中に入るとともに出して、それを座布団替わりにしていた。

 それを聞き、マリーは微笑んで頷く。虎碧も同じように微笑みながら、

(このままずっと時が止まっててもいいかな)

 ふと、そんなことを考える。

 幼い日に母と生き別れて、龍玉と出会い、江湖こうこで生きた。そして思いがけぬこととはいえ、母と再会し。他の人たちもいい人たちで。彼女は初めて生きた心地やささやかながら生きる喜びを感じていた。

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