走向継続
便利で有り難いが、ご都合主義であると苦笑もせざるを得なかった。
「まあまあ、とは言え。子孫が重く用いられて、よく働き。わしは安心したよ」
じっと貴志を見据えて言う。
「子孫、やはり李志煥殿は僕のご先祖さまだったのですか」
「そうじゃな。そう世界樹が教えてくれた。生まれ変わり、子孫と話をするというのも不思議なもんじゃが」
元煥は独演をしばし休止し、周囲は不思議な沈黙につつまれる。
貴志は李家の系譜を思い起こす。実は李家は暁星の建国前のことはわからず、白羅の時代まで遡ることができなかった。
李家だけではない。暁星建国時に功績のあった五人の重臣やその家は、それ以前は無名の存在であった。
国も落ち着き、系譜をたどろうと試みたものの。手掛かりはなく。王家も五大家も暁星とともに現出したものとすることにした。
もちろん、古の名君や聖人君子につながっていればという願望はあったし。李家も同姓の白羅の名臣、李志煥とつながっていれば、と思う事たびたびではあったが。
白羅の時代に飛ばされ、李志煥と出会った時。まさか、もしかしたら、と思いつつも確信を持てず。確認をするも何も、それどころでもなく。結局疑問もうやむやのうちに次に行かされた。
ともあれ、さて、今ここでどうすればよいのか、であった。
「お喋りが過ぎたようじゃな。まあ、ここでしばしくつろげばよい」
元煥は立ち上がり、他の面々も一緒に立ち上がり。
「じゃあの」
と、庵を出る元煥を見送ったあと。それぞれ思い思いに庵の中でくつろぐ。
源龍は隅っこで横になり、それに羅彩女がくっついて。貴志は本棚の本を眺めて。香澄と龍玉と虎碧、マリーにリオンは隅っこで五人で円座になり。
龍玉は、隠していた九つの尻尾を出した。そう、彼女は九尾の狐なのだ。
元煥が出てゆくとともに、なんだかゆるんだ空気が漂う。
何もすることがないのである。
一応、寺の小僧が数名来て、菓子を置いて。食事も時間が来れば運ぶと言っていったので。食の心配はないものの。
香澄は部屋の隅に座り、瞳を閉じて瞑想するように静かにしている。
最初円座になって、少し話をしていたマリーとリオン、龍玉と虎碧だが。気晴らしに外に出て、深呼吸をする。
「まあ、ゆっくりできる時にしたほうがいいね」
外には長椅子もあり、四人で腰かけ。朝日を受けながら、のんびりくつろぐ。
源龍はもう寝入って、羅彩女も並んで寝た。
貴志は本棚から、適当な本を手に取り。窓の近くに座って頁をめくる。
静かだった。これまでが騒がしかっただけに、余計に今が静かに感じられる。
なにせあの源龍が、暇だ、などと愚痴をこぼさずに静かに寝ているのだから。なおさら静かだった。




