走向継続
それは永きに、あるいは一瞬か。
無に交わって、心地の良い闇の中を泳ぐ、あの気持ちよさ。
「皆いるね」
そんな声がしたかと思えば、閉じていたことに気付かなかった瞼が開かれて。
香澄と源龍に李貴志、羅彩女、龍玉と虎碧、そしてマリーとリオンらは、仏像と菩薩像の石窟にいる。
「ここは」
「あの寺か」
貴志は中央に据えられる仏像を見つめ、源龍は周囲の石壁に刻まれた菩薩像を見据える。
「ここは、光善寺」
香澄はぽつりとつぶやく。
「お寺!?」
虎碧は碧い目を見開いて石窟の中を見回す。その一方で龍玉と羅彩女は、
「狭い」
と言って、外に出る。それより先に、マリーとリオンが外に出ていて、微笑んで他の面々を見つめていた。
服装と言えば、皆私服だった。得物もない。しかし貴志の懐には、変わらず筆の天下があった。
「あッ!」
不意に声がする。寺の僧侶だ。数名いて、箒や水桶に布巾を持っている。早朝の掃除のために石窟に来てみれば。
数名の男女がおり、魂消た顔して立ち尽くしている。
「前にもこんなことがあったけど、今度はこんなにたくさん!」
香澄と源龍に貴志、虎碧も外に出て、僧侶と対峙する。
「前にも、ということは、あの時より日にちが経ってるってことか」
夢や幻のような世界を行ったり来たりする中で、この光善寺はたしかに現実で時間も経っているようではある。
「す、すぐに法主を呼んで……」
「あ、法主!」
驚く僧侶らの後ろに、いつの間にいたのか、悠々とした老僧がいた。この老僧こそ、法主の元煥であった。
「お帰りになったか。おつとめご苦労であったな」
そののんきなものの言いように、一同ぽかんとし。一部は苦笑する。
あわあわと狼狽する僧侶をよそに、元煥は、
「まあ、ここで立ち話もなんじゃし、外の庵にゆこうかい」
と言って自ら先頭に立って、一同を寺の外の庵に導く。
寺は山上にあり、周囲は森の緑が囲む。鳥の鳴き声がし、見上げれば、空を飛ぶ鳥が見える。外に出れば、川のせせらぎも聞こえる。
自然の音に比べて人は少なく、静かなもの。
ここが人里離れた聖域であることを感じさせる。
(逃げるにゃちょうどいいところだね)
九尾の狐の龍玉は、ふとそんなことを考える。煩わしい人の世から、生きて逃れようと思えば、出家しこんな人里離れた寺にゆくしかないであろう。
もっとも、光善女王のように不本意に出家させられ、寺に押し込められる者もあるが。
とにもかくにも、ここは人の世にありながら人の世とは離れた場所だった。
なにより、世界樹が、この寺を現世と異界の扉替わりにしているのが。
一同庵の中に入る。




