捏的測験
薄暗い食堂の中、ふたりの周囲では鬼が気まぐれに浮遊し彷徨っていた。
「ただいまー」
軽やかな声がし、振り向けば香澄と源龍が食堂に入ってくる。
「あら、お客さん?」
「ああ、どうも」
貴志は少しきまずそうに会釈をする。
長い前置きの果てに、会えなさそうと思っていたふたりに、こんな簡単に会えてしまうなんて。
「来たのか」
源龍は貴志を見て、やれやれと言いたげだった。すると、奥からあの子どもがのこのこと現れて、
「そろったね」
と、不敵に言う。
貴志は子どもが現れるとともに、
「なにか嫌な予感がする」
と、寒気をおぼえた。
源龍は呆れて貴志を見据えて、
「余計な好奇心でここに来なけりゃ、余計なことを思い出さずに済んだし、しんどい思いもしないで済んだものを」
などと言う。
「そんなことは、どうだっていいじゃないか。それよりお腹すいた。なんかつくって」
子どもはのんきに羅彩女に空腹を訴える。
「どうせ担々麺は残ってないんでしょう?」
「相変わらず可愛げのない」
源龍は口元を歪めて皮肉っぽく子供を見据え、香澄は申し訳なさそうに「ごめんね、もうないの」と言う。
が、担々麺がないということは、しっかり商いをしてきたということである。それでなんで責められるんだ? と源龍は素直にムカついた。
羅彩女はふうとため息をつき。
「わかったよ、なんか適当なものをつくるから、待ってな」
と奥に引っ込んでいった。
羅彩女は食堂の主人だから、料理の腕前はあるのだろうが。食堂のたたずまいを見回して、貴志は何が出るのかと不安を禁じ得ない。
「さあさあ、この卓に座ろう。安心しなよ、羅彩女は料理の腕も確かだよ」
子どもは貴志の内心を察してそんなことを言う。四方形の卓をくっつけて、香澄と源龍、貴志と子どもと並んで、向き合うように座し。
源龍は腕を組んで沈黙し、香澄は手を膝の上において静かにして。子どもは何が楽しいのか、嬉しそうにきょろきょろし。食堂を漂う鬼に触れたりして弄んでいる。それを見て、
「触れるのか」
と貴志は驚く。
「そうだよ、触れるよ。するっと手が素通りすると思った?」
「……うん、透き通って煙みたいなものだと」
「頭のいい貴志さんでも先入観をもってしまうんだね」
「いやあ、面目ない」
(あやまってんじゃねえよ)
源龍は変にむずがゆいものを覚え、香澄は抑えつつもくつくつと、笑いをこらえている。
「ちょっと暗いかな」
もともと日当たりの悪いところだ。時間が経つとともに、視界も悪くなる。というとき、浮遊する鬼のひとつが、気を利かせて卓の上に燭台を運び。さらに火打石で、かちかちと火をつけ、明かりを灯す。




