永無止境
船が香澄らのもとまで下り、咄嗟に飛び乗り。素早く上昇し。混乱の江北都を見下ろす。
皮肉にも、どういう仕組みかは知らぬが、反魂玉が宮廷周辺に結界を張っているようで。無事に船に乗り込むことはできたが。それ以外はひどいものだった。
火の手も盛んになり、高い建物が炎に飲まれて、崩れ落ちるのが見えた。
「地獄、地獄、地獄。人生は地獄めぐりか」
源龍は吐き捨てるように言う。
皇太子はもう小屋の中にいる。
もう江北都で出来ることはない。他の安全な場所に落ち延びて、そこで再起を懸けるしかない。
「あ、鳳凰!」
いつの間に外に出ていたのか、幼い公主が反対側の船縁越しに空を見上げて、どこかを指差す。
「これ、またそんなことを」
母の皇后は諫めるが、
「本当よ、お母さま。ほら」
と、手を伸ばし指差す。その先に目をやれば。
「……!」
皇后は絶句した。
反対側にいた香澄たちも、咄嗟に公主と皇后とともに空を眺めて。言葉もなかった。
はるか遠くに、輝く金粉が一粒、空を漂っているように見える。それは目を凝らせば、鳥に見える。
頭の飾り、尾羽の豪奢さ。それは紛れもなく、鳳凰であった。
それが急降下をし、耳をつんざくような鳴き声を発せば。江北都を包む炎や煙は竜巻のような姿となってひとつにまとまり。鳳凰の嘴の中へと、吸い込まれてゆく。
そんな、炎と煙の竜巻を吸い込む鳳凰の姿に、一同は言葉もなかった。
「あの、炎と煙に、多くの人々の思いが込められているのね」
香澄はぽそりとつぶやいた。
鳳凰はさらに急降下し、鳴き声も発せば、これに気付かぬ者はなく。狂乱の体となった暴徒らは、暴れるのを少しやめて空を見上げれば。
「鳳凰だ!」
皆空を指差して口々に鳳凰だと叫ぶ。
「中へ」
香澄は皇后と公主を優しく小屋の中へ導く。ただでさえ見ない方がよい悲惨な光景が広がっているのに、鳳凰の天下が現れれば、悲惨の度合いはより増してゆく。
そしてその通り、鳳凰は火の手上がる江北都に降り立ち。鴇や鷺が水田で蛙をついばむように、人をついばみ始めた。
暴徒と化し、滅茶苦茶に暴れて、火を燃え広める者らは。哀れ鳳凰のくちばしに挟まれて、飲み込まれてゆく。
鳳凰は巨大で、ところどころにある五階建ての建物と同じくらいの大きさだった。リオンはそんな鳳凰が小さく見えるところまで遠く離れた。
「逃げよう」
と貴志は言うが、リオンとマリーは首を横に振る。
「鳳凰からは、逃げきれないんだ」
「それって……」
「逃げられないんです」
「やるしかねえってことだな」




