永無止境
関焔は、人外の妖魔にそそのかされたのを知り。ついには堪え切れなくなったか、白目を剥いて。そのまま倒れて、気絶してしまった。
「おいおい、いくらなんでも弱すぎだろ!」
見かねて源龍はそう言うも、気絶した関焔は返事がない。
人狼も画皮も、腹を抱えて笑う。
しかし、画皮はいかに人外の妖魔とはいえ、反魂術をいつ心得ていたのか。伴顕も術を心得ていたからこそ、反魂玉を用いられたのであろうに。
だがそんな疑問を真剣に考える暇などない。源龍は打龍鞭を構え、打ちかかった。同時に香澄も駆け。羅彩女、龍玉も駆け出す。
しかし、人狼と画皮、骸骨に首無しは逃げ出す。
「馬鹿め、いちいち真正直に相手をすると思うか!」
人狼としては相手の強さは十分心得ている。だからこそ、逃げることも念頭に置いていた。もちろんこれを卑怯と思うわけもない。
江北都で唯一の安全地帯である宮廷は無人の宮となり。人狼と画皮はその中に逃げ込んだ。
宮廷の中は入り組んでいて、まるで迷路のようだった。今は日の昇る時間帯で、窓から陽光が差し込み視界に困らないが。これが夜だったら、暗闇の迷宮となるであろう。
ともあれ、人狼と画皮の逃げ足は速く、香澄たちは追いつかなかった。
「くそお、ムカつく奴らだ!」
引き離されて、姿も見えなくなって。源龍はやむなく追いかけるのをやめ、打龍鞭を悔し紛れに、ぶうんと空振りする。
「ほんとになんて奴らだよ」
羅彩女も悔し紛れに軟鞭をぶんぶん空振りさせる。
龍玉も忌々しく舌打ちする。尻尾は、いつの間にか出していた。
香澄は落ち着いたもので、周囲を見渡し。
「船に戻りましょう」
と言う。
「そりゃ名案だけど。あいつらはどうするの?」
「鳳凰が食べてくれるわ」
龍玉の質問に、香澄はそんな風に、真面目な顔をして応える。少しの微笑みを湛えながら。
「そんなご都合主義的なことが起こるものか」
源龍は憮然として言う。が、羅彩女は、
「案外、そんなもんかもしれないね」
相手がこちらの相手を真面目にする気がないのなら、こちらも真面目に相手をする必要もない。
香澄は微笑んで頷いて。宮廷を出ようとし、他の面々も、色々思いつつそれに続くことにする。
宮廷の外に出てみれば、関焔はまだのびているままだった。起こしてやるか、と思ったが。
「そのままにして」
思いもかけず、香澄はそんなことを言う。関焔は思いのほかいい奴だったから、と源龍は内心思っていたが。
香澄も思うことがあってのことだろと、関焔をそのままにして。空を見上げれば、船が浮かんでいるのが見えた。おーい、おーいと手を振れば。貴志や虎碧も気付き、リオンに頼んで船を下ろしてもらう。




