永無止境
しかし皇太子の顔が蒼白になるのを見て、
「見てはいけません」
香澄はその手を引いて、小屋のそばで身を寄せ合って座る皇族たちのもとまで戻した。
皇后は公主を抱きしめ、うつむいている。
「私たちの罪は、どこまでも深いのでしょうか」
「……?」
公主は母が何を言っているのかわからず、不思議そうに、その顔を見上げる。
「ねえ、お父上は?」
などと、無邪気に問い。皇后は悲しそうな笑顔を向け。
「遠い所に行ってしまわれました」
と応えるしかなかった。
公主は、いつ胤帝が戻ってくるのかと問うたが。わかりません、と返すしかないことに、儚い思いを禁じ得なかった。
公主は、ぽかんとして、しばらく父と会えないのか、という風に理解した。ほんとうに父の死を理解するには、まだ早いようであると、皇太子は思わざるを得ない。
「栄耀栄華に溺れ、まつりごとの基を忘れた報いか。本当に恐ろしいことだ。古人の戒めは、守らなければならないものだなあ」
皇族の誰かが、そんなことを言った。
羅彩女は、もっと早く気付けよと、心中で毒づいていた。
(人間のやることなんて、今も昔も変わらないね)
ともあれ、それぞれが自分の感情にひたる暇はなかった。今この時をどうするか、それが最重要課題だった。
「とにかく、遠くに逃げるしかないけど。どこかいい避難先知らない?」
リオンは皇族にたずねるが、皇族は皆江北都から遠く離れたことがないため、地理に疎く。すまないが、わからん、と言い。皇太子ですらそうだったから、あらためて宮中の腐敗を思い知ることになり。
リオンは思わず天を仰いだ。
「あ、鳳凰」
皇后に抱かれる公主は、どこかを指差しつぶやく。
源龍らはぎくりとしながら、指差す先を眺める。が、何も見えない。
「これ、こんな時に」
「だって、本当に鳳凰が見えたんですもの」
「他の鳥の見間違えでしょう。お前は黙っていなさい」
「……はーい」
公主は皇后にたしなめられて、小さな口をつぐんだ。
「貴志、お前知っているんじゃないか?」
「う、うーん……」
北娯を舞台にした小説を書いたのだから、それなりに地理は心得ている。北娯の時代と辰の時代とは、やはり時代が違うので変わっているところもある。辰の感覚であそこだと行っても、まだ人が住める状態ではなかったり、逆に辰の時代に廃れたところが北娯の時代には栄えているなど。
「まあ、思いつくことは思いつくけど」
と言った時、下界の様子が変わった。宮廷から武装した十数名の集団が飛び出し、屍魔と渡り合い出した。




