永無止境
ともあれ、民衆は胤帝のなきがらが焼かれたことに狂喜し、その狂喜は瞬く間に広がってゆく。
その狂喜とどまることを知らなかった。そうなれば、
「皇族を皆殺しにしろ!」
という声が上がった。
焼かれたなきがらは骸骨となり。戸板に乗せられて、遺骨は中庭の伴顕の近くに適当に埋められた。
宮廷はたくさんの人民が押し掛けて、取り囲み、今にも雪崩れ込みそうな雰囲気だった。
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
そんな叫びがこだまする。
「屍魔の次は狂った人間……」
龍玉は眉をしかめて言う。つい最近まで屍魔に襲われて逃げ惑う一方だった人民たちは、今は狂喜と狂気にとり憑かれて宮廷を囲み、殺気立っているのである。
公主は怖さのあまり皇后の胸にすがり、泣いている。皇后も皇太子も、皇族たちは言葉もなく黙り込んでいる。
人民のために尽くすと誓ったが、その人民がこうして自分たちに激しい憎悪の炎を燃やしているのを知り、心を八つ裂きにされた気持ちだった。
「いい気なもんだぜ」
源龍は忌々しく吐き捨てる。
人間なんて所詮はそんなものだと、冷めた気持ちにならざるを得なかった。
羅彩女も何とも言えず黙るしかなく。香澄は部屋の隅に座り、落ち着いて瞑想している。
こうして静かにしていると、まるで人形のようだ。
しかし、どうなることやら。いかに源龍や香澄が奮戦したとて、圧倒的に数に勝る人民が宮廷に雪崩れ込めば、確実にやられる。ここは割り切って、皇族を守りながら外に逃げて。船に乗せるしかないか。
などと思案していると、どかどかどかと、けたたましい足音がする。誰かと思えば、関焔であった。
見張りの兵はとどまるように言うが、それを無視して部屋に入り込んだ。
その顔は強張り、皆何事かと緊張する。香澄もうっすらと目を開け、成り行きを見守る。
「すまん!」
突然跪き、詫び出す。
「皇帝は立派に死んだのに、それを人民に伝えることはできなかった。それどころか、衆目に晒された挙句に、燃やされてしまった。それを止められなかったオレの無力さよ。ほんとうに、すまん!」
関焔はぼろぼろと涙を流しながら詫びる。皇后は卒倒し、皇太子が支えて寝台に横たえる。公主は唖然として皇太子にすがりつき。他の皇族は首を横に振る。
「うるせえ、でてけでてけ!」
源龍は有無を言わさず関焔を追い出したが。これがまた驚くほどに素直に出てゆくものだから、かえってまた拍子抜けするほどであった。
「……」
そのうなだれた力ない背中と、腰にぶらさがる大刀を見送り。皆なんとも言えない気分だった。




