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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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永無止境

「ゆこう」

「でも」

「やむを得ぬ」

 秦算は回れ右して歩き出し、関焔は一度石狼を見据えてから首を横に振って、その後ろに続いた。

 という風に、なぜか石狼が玉座に着いて皇帝ぶって。関焔は諫めるもむなしく秦算ととも退出せざるを得なかった。

 石狼の側近も、なぜか皆挿げ替えられた。もともとガラの悪いところもあった者たちではあったが、さすがに石狼の側近ともなればそれなりに顔は引き締まっていたが。

 今度新しく側近になった者たちはやけに、にやにやへらへらした、だらしない顔つきの者たちばかりであった。

 胤帝のなきがらは、あろうことか宮廷より外に出されて。武装した兵士が守りながらでも、人々の前に晒された。

 皇帝らしい豪奢な玉体の、その死相は、長年の酒色のせいか死に顔をよりいっそう黒ずませていた。

 もちろん皇帝のなきがらが外に出されて多くの人々に晒されるなど、ありえないことであった。それに対して得意な気持ちを以って、兵は言った。

「暴政をほしいままにした悪の皇帝は無残にも死んだ。しかし死ぬだけでは足りぬ。この汚いものを燃やし尽くして、北娯を清めんとする!」

 などと、ようは胤帝を死してもなお辱めると言うのである。松明の火が豪奢な帝衣に移されて。火は胤帝のなきがらを飲み込んだ。

 人々はわっと声を上げた。

 ざまあ見ろ、という声々の中、そこまでしなくても、という小さな声もあったが。憐憫の声は、復讐の心に掻き消された。

「待て待て!」

 そこに飛び込む者があった。血風銀光の関焔であった。なきがらをどうするのかと気にして、石狼に問うたが答えてもらえず。やむなく他の者にたずねれば、外に運び出されたというので。急いで駆け付けたという次第。

 ちなみに秦算はあてがわれた部屋に引き篭もってしまった。

「何をしている! なぜ皇帝を必要以上に辱めるんだ!」

 しかし冷たい目で、兵は関焔に刃を突き出す。

「お前たち!」

 顔なじみの者たちのはずが、まるで赤の他人であるかのような冷たさ。ともに酒を酌み交わし、馬鹿話にも花を咲かせた仲のはずが。

「これは頭領の命令です。いかに関焔殿であろうと、命令に逆らえば容赦しませぬぞ」

「なに?」

 関焔は背筋に冷たいものが走るのを禁じ得なかった

 その間にも、なきがらは燃やされてゆく。民衆はやいのやいのと騒いでいる。もし関焔が暴れても、数の力で抑えられるのがオチだろう。

「むむむ」

 唸り、悩み、やむなく回れ右して宮廷に戻る。その背中を兵はへらへらと、冷たく見送るのであった。

 そんなことが、空の船の上から見下ろせた。

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