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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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永無止境

 が、ただ白い雲が下界のことなど知らず悠々と青い空を泳ぐばかり。

「何かの見間違いじゃないのか」

 とは、誰も言わない。

「これ、じっとしていなさいと言ったでしょう」

「でも、確かに鳳凰がお空にいるのが見えましたわ」

「雲を見間違えたのでしょう」

 皇后が公主をたしなめるが。

「見間違えじゃありませんわ、私、確かに見ましたもの」

 公主も引けを取らず、見たと主張する。

(出る)

 香澄たちは、いつかは出ると確信した。公主のも見間違いではないだろう。

「仕方のない子ね」

「母上、今のこの時に見間違いと言えども鳳凰を見たと言うその挫けない気持ちを私は尊重したいと思います」

「そうね」

 皇太子の言葉に皇后は頷く。この絶望的な、監禁状態の中で、鳳凰を見たと言えるということは、心はまだ挫けていないということと見てよいだろう。

「お兄さまはわかってくださるのね」

 公主は喜んで皇太子のもとまで駆け、手を取り笑顔を見せる。

 他の皇族は、顔を背け涙を流す。

 今のこの時だからこそ、幼い公主の笑顔が心に突き刺さる。願わくば、北娯維新軍が慈悲を以って皇族に接するようにと祈るしかなかった。

 皇族以外の者は香澄たちのみである。他の臣下や侍女は遠ざけられている。しかし臣下や侍女の中に、北娯維新軍に組する者も多かった。

 胤帝は酒色にふけり、その犠牲者はやはり多く。その犠牲になった者が、北娯維新軍に味方したのだ。

 そのおかげで宮廷は混乱なく静かである。しかし皇族周囲の空気は冷ややかである。

 そのまま時は過ぎて、夕方になると。胤帝の遺体を別に移すと数名の兵がやってくる。扱いはぞんざいで、手荒に戸板に乗せて、どこかへと運び去っていった。最後の別れの言葉をかけるいとまもあたえず。

 源龍はさすがにむっとしたものの、香澄がそばにいて無言でたしなめた。

 それから夜の帳が落ち、小さな灯火が灯され、維新後の初の夜を迎え。夜も深まれば眠気に襲われ、雑魚寝ながら皆で寝て。それから夜が明け、朝が来た。

 外ではどうなっているのか。

 空に浮かぶ船から、貴志と虎碧とリオンとマリーはは並んで下を見下ろしていた。騒乱は収まり、人は復興のために働き出し。まずはほっとひと息。といいたいところだが。

 きらりと何かが光ったような気がし、そちらに目を向ければ。

「鳳凰……」

 四人してぽそりとつぶやく。本来鳳凰は吉兆なのだが、今までの事で不吉の兆しになっていた。

 鳳凰は太陽向けて羽ばたき、高度を上げ、そのまま陽光の中に溶け込み。それから姿を見ることはなかった。

(天下とは何だろうか)

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