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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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永無止境

 国が亡びる時は、王侯貴族などの上層部の腐敗が酷いもので。例外はなかった。その上層部の腐敗に、他国が付け込むのである。

「健烈帝は石邦の傀儡くぐつだった」

 貴志はぽそりとつぶやいた。

 さて、北娯維新軍は皇帝をどのように扱うのであろうか。

 宮廷前で、北娯維新軍は集まった人々に維新を告げた。さらに、屍魔の出現の原因も、皇帝がよからぬ魔術師を使ったためであることも告げれば。人民の怒りは頂点に達し。

「皇帝の首を刎ねろ!」

「いや、八つ裂きだ!」

 等々の怨嗟の叫びが轟いた。

 もともとが酒色にふけりまつりごともおろそかで、その下の臣下もまともなのがいない。見よ、逃げた臣下らは捕らえられて、宮廷前に引き摺り出されているではないか。

 そう、混乱が生じたとき、臣下らは皇帝を見捨てて逃げたのである。その程度の忠誠心であった。しかしそれらを捕らえたのは、江北都の守備兵である。

 安い給料でこきつかわれて、守備兵の多くは不満を抱えていた。それがここに来て、裏切りという形となった。いや、守備兵自身にとってはこれは正当な行為であり、裏切りだという気持ちは微塵もなかった。

 怒れる人民の前に引き摺り出された臣下らは、涙と鼻水と、殴られたり蹴られたりした怪我での血とで顔をくしゃくしゃに汚し。

「助けてくれ!」

「これからは分配もきちんとする」

「命だけは!」

 と言うものの、

「問答無用!」

 抑えきれなくなった人民らは狼の如くに、一斉に臣下らに襲い掛かり。止めを刺した。

 哀れ臣下らはぼろ布のようなぼろぼろの肉塊となって、死んで。そのぼろぼろの肉塊を見て、人民は留飲を下げた。

「さあ、復興だ!」

 石狼らはこの復讐劇をひととおり眺めて、復興を呼びかけた。今の人民らは意気軒高である。復興を呼びかければ、

「おおー!」

 という雄叫びがあがった。

 その雄叫びは宮中にまで聞こえた。

 私室で控える胤帝ら皇族と、香澄こうちょうたちは、じっと耳に触れる雄叫びを聞いていた。

 夜闇の中、室内は灯火がひとつ、小さく揺らめいているだけ。視界の悪い中、緊張がくうを硬くしていたが。聞こえてくる雄叫びが、空を揺らす。

「来るか」

 源龍げんりゅうはぽそりとつぶやく。さまざまな感情が頂点に達して、抑えきれない気持ちのままに、ここに雪崩れ込んでくるかもしれなかった。

「人間も、怖いねえ」

 龍玉りゅうぎょくはぽそりとつぶやく。

「え?」

 皇太子が何を言っているんだと、不思議そうに龍玉を見る。まるで彼女は人間でない他の者であるかのような言い草だったから。

「いやいや、なんでもない、ひとりごと」

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