鋼鉄姑娘
無残な姿になりはてて、伴顕は死んだ。
同時に、咆哮や叫喚がやんだ。反魂術をかけた伴顕が死したことで、術も解け。屍魔も死人に返ったのである。
「この術を解くには、術者の命を絶つしかない。伴顕も無能というわけでもない。まっとうなやり方で宮中に入れば、後世に名臣であると讃えられただろうに」
秦算は首を横に振り、無残な姿となったであろうことを想像する。
伴顕の屍は中庭に放置され、布をかけられる。とりあえず今は片付けられず、あとで適当に弔うのである。
それからややしばらくして、万歳の大合唱が外から轟き出す。
耳をすませば、
「維新は成った!」
「維新万歳!」
「維新万歳!」
「万歳、万歳、維新万々歳!」
と叫んでいるのも聞こえてくる。
外の者たちが、屍魔の心配もなくなり、どさくさ紛れながら宮廷を抑えていることもあり、維新成ると叫んで。生き残った人民たちも、それに呼応したのである。
「聞こえるでしょう。さあ、次はあなたの番です。潔く、全てを受け入れなさい」
一応敬語をもちいて話す石狼であるが、威圧感をもって胤帝を見据える。
香澄は石狼と対峙し、睨み合う。一触即発の雰囲気である。
「今更ながら、我が罪の深さに気付いた。酒色におぼれ、まつりごとをないがしろにしてしまった。自業自得。……ただ」
「なんです?」
「妻子に罪はない。どうか助けてほしい」
「わかりました」
話し終えると、胤帝は倒れこんだ。身も心も疲れ果てたのである。妻子らが駆け寄ろうとするも、石狼らに「動くな」と押し留められる。
幸い意識はあり、大丈夫だと、上半身だけ起こし妻子に騒ぐなと呼びかける。
(本当ならば皇族どもをこの場で皆殺しにしてやりたいが……)
香澄に源龍たちがいる。必ずや邪魔をするであろう。石狼は奥歯に物が挟まるような思いをしながら、兵に無礼がないように見張れと命じて。皇帝の私室を後にした。
香澄は皇族らとともに残った。
源龍たちはというと、これも一緒に残った。これに対し、石狼は何も言わなかった。とにかく今は維新である。無駄な争いをして足を引っ張られたくなかった。
石狼ら北娯維新軍の主な面々が出て、見張りの兵三名だけになってから。
「お前いたのか!」
などと、今更のように言う。
胤帝は妻子の手を借り、寝台で横になる。
香澄は右手の人差し指を伸ばし、唇の前で立てて。静かな眼差しで源龍らを見つめ、静かに、と無言で呼び掛けた。もうすっかり皇族の守護者である。
「出よう」
と羅彩女は言う。




