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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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鋼鉄姑娘

 屍魔の次は、胤帝である、という流れになって。それは止めようもない。

 貴志は船縁越しに戦況を見守るが。源龍たちの姿は大勢の人々の中に紛れて、ついに見つけられなくなってしまった。

 ただ、多くの人々が宮廷を目指しているのはいやでもわかった。屍魔出現のどさくさに紛れて、というのは容易に想像できた。

 宮廷はかつて統一国家が国を統べているときは都の出先機関であった。それだけに、この江北都で一番壮麗なつくりになっている。

「守備兵が一番やる気になっている……?」

 目を凝らせば、守備兵と思しき兵たちが先頭に立って、北娯維新軍の案内をしているようであった。

 胤帝は悪政を働き、反乱を起こされて、殺され。その子、健烈帝がわずか十五歳で帝位を継いだが。反乱軍の傀儡の皇帝であり、実権はなかった。

 結局、健烈帝は五年後、二十歳で謎の死を遂げ(梅毒など性病由来であるとする記録も残っているが、これは健烈帝を貶めるための作り話である可能性も否定できない)。反乱軍の首領である石邦せきほうに近しい者が帝位を継いだ。この石邦こそ、石狼のもととなった人物である。

 しかし、十年後、さらに南方の国である南理が勢力を伸ばし、これに滅ぼされて併合され。さらに南理は都を江北都に遷都した。

 同時に北方は大袁国が勢力を伸ばし、大陸を南理と二分し。この時代を南北朝時代と呼ぶ。この南北朝時代になると、それぞれ、袁、理、と国号を一字に改めている。

 そんな記憶が貴志の脳裏に閃き巡った。

「人類の歴史は戦争の歴史っていうけど、こうして見ると、本当だね」

 リオンはぽそりとつぶやく。

「そうだね」 

 貴志は切なさそうに返すしかなかった。

 ともあれ、人々は宮廷に向かい。ついには、突入した。

 守る者はごくわずか。迫る人々に藁束のごとくに踏みにじられて、払われて。瞬く間に宮廷は抑えられてしまった。

 人々は正気を失い、宮廷を破壊しようとし。火をつけようとする者まであった。これを止めたのは、北娯維新軍であった。

 宮廷はこれからも使わねばならぬから、破壊されてはたまらぬと、石狼は狼牙棒を手に指揮を執り。維新軍の兵は狂乱状態になった人々を追い払い。

 ついには宮廷を北娯維新軍を以って完全に掌握し。胤帝をはじめとする皇族は、籠っていた皇帝の私室から引き摺り出されようとした。が、この皇族を守り、北娯維新軍に手出しをさせぬ者があった。

 その者は少女であった。

「お、おお、あなたさまは、鋼鉄姑娘ではありませぬか」

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