鋼鉄姑娘
敵意を感じさせない関焔の呑気さが、源龍はどうにも苦手だった。変な話、いっそ敵意を持ってもらった方が気が楽だった。
「悪いけどあたしらは身持ち堅いよ!」
「わかっている、手出しはせん」
「なんだかなあ」
関焔は龍玉と虎碧を見て、少しばかり興奮を覚えたものの。その程度にとどめ、手出しをしないことをふたりに約束し。
源龍はいよいよ拍子抜けする思いだった。
「あの馬鹿野郎!」
呑気な関焔に石狼は怒りと呆れを同居させながらも、まずは屍魔、そして次はと考えつつ狼牙棒を振るった。
「宮廷に行くぞ、宮廷を抑えろ!」
江北都は混乱の極みにあり、どうにか生きている非戦闘員の人民はもとより守備兵も正気を失い狼狽する有様。
頭領の掛け声に応じ、北娯維新軍の手勢は屍魔を薙ぎ払いながら、一路宮廷目指して駆けた。
「どさくさに紛れて、結局反乱か!」
「反乱ではない、維新だ!」
「屍魔が」
男たちの怒鳴り合いをよそに、虎碧はふと気付く。屍魔の数が少ない。北娯維新軍はよく戦い、屍魔のほとんどを片付けたようだった。
「しかし、どうしてこんなことになってんだ」
「反魂術が完全ではなかったのじゃ。人不足を補うため死人を蘇らせたのが、裏目に出たのじゃな」
秦算は横たわる屍魔だった屍を眺めて、哀れそうに首を横に振る。
「北娯の魔術師は未熟な腕前じゃったな」
ともあれ、北娯維新軍は宮廷目掛けてまっしぐらに駆けた。少なくなったとはいえ、屍魔は迫りこれを薙ぎ払う。江北都の守備兵は姿が見えない。この混乱にすっかり戦意をなくし、逃げ出していた。
それどころか、よく見れば北娯維新軍と一緒に、
「胤帝を倒せ!」
「維新を成し遂げるのだ!」
と叫んでいる者まであった。
劣勢から寝返ったのは容易に想像できた。もちろん、寝返って北娯維新軍に着けば悪いようにはしないと守備兵に訴えているのは言うまでもない。
「屍魔様様だね」
龍玉は他の者に聞こえない程度に、ぽそりとつぶやいた。尻尾はもちろん隠している。
「いかに胤帝悪政を施しといえども、人命を無暗に奪うことはせぬ。我らの目的はあくまでも維新である。維新たである。報復ではない」
秦算はそう叫んで、他の者にもそう叫ばせた。状況は完全に北娯維新軍に優勢であり。龍玉の言う通り、屍魔様様であった。
わずか五百ばかりの北娯維新軍は、屍魔と戦いこれのほとんどを片付けたこともあって、守備兵や人民の心を掴んで。その数を一気に増やした。そこに胤帝の悪政である。




