鋼鉄姑娘
思わずふところの筆、天下に触れた。
さて今回、自分の小説の世界では、どんな時に、天下で何を描くことになるのであろうか。
ついには太陽は完全に隠れて、夜の帳が落ちて、太陽に代わって月や星々が空に浮かんだ。
「うおりゃあああーーー!」
けたたましい雄叫びが炎の江北都に轟く。その轟きとともに、銀光閃き、血風が吹き荒んだ。
これなん血風銀光の関焔であった。得物の大刀で屍魔を血祭に上げ、自身も返り血を浴びて真っ赤になっていた。
そこから少し離れたところで、狼牙棒が振るわれ、屍魔の頭部が破壊される。これは東牙の石狼であった。
「頭をやれ、この屍魔どもは頭が弱点じゃ!」
打破麻煩(難を破る)の秦算は護衛の兵に守られながら、指揮を執る。
北娯維新軍であった。その数、わずか五百。
維新を成し遂げるために、小勢ながら、決死の覚悟を以って江北都に攻め入ったのではない。
「江北都に屍魔出現せり!」
との報せが飛び込み。
「義を見てせざるは勇無きなり!」
いかに胤帝憎しとはいえ、その下々の民に罪はない。民を屍魔から救うため、石狼は北娯維新軍を率いて馳せ参じたのであった。
しかし屍魔はいずこより来たというのか。忽然と現れて、江北都の人民を餌食にするのである。
「呪いじゃ、皇帝の所業に神がお怒りになったのじゃ」
と、発狂しながら叫ぶ者も見受けられた。
もうあたりは夜闇に包まれていたが、火の手のために昼のように明るく、視界に困らないのは皮肉な話だった。
「むッ!」
石狼の視界にあらぬものが写りこんだ。それは、打龍鞭を振るう源龍らの姿だった。
「あやつもおったのか!」
一緒にいる女どもは何者かと思いつつ、むッ! と怒りがこみ上げる。しかし秦算は諫める。
「頭領、ここは私情を捨て共戦するがよかろう。彼らも屍魔と渡り合っておる」
「ちッ!」
忌々しそうに舌打ちし、源龍を無視して屍魔の頭を狼牙棒で粉砕した。言われた通り、胸のむかつきより目前の屍魔を片付けるのが先決であった。
「おー、お前も来ていたのか!」
などと呑気な声がする。関焔であった。
「ねぐらから出ていかれて驚いたけどよ、こうしてまた会えるとは。縁があるんだなあ」
「なんだよお前は」
関焔の呑気さに源龍は拍子抜けする思いであった。しかし、得物の大刀もろとも返り血を浴びたその姿は奮闘を物語り。なるほど血風銀光のあだ名にふさわしい侠客であった。
「あの白羅の優男はどうした。や、また女を連れておるのか。あやかりたいなあ」
「だからなんだよお前は!」




