鋼鉄姑娘
ところどころで火の手も上がり、龍の舌のような炎が上がり。煙も空高く上がり。天を目指して、船を越し、雲と巡り会う。
そんな中で、人は獣となって得物を手に渡り合い。命のやり取り、殺し合いの戦争をする。
そこになぜか屍魔が混ざって、戦乱をより一層凄惨なものにしていた。
ところどころに転がる屍のむごさは、言いようもない。が、その屍が、むくりと起き上がるや。他の、生きた人間に襲い掛かるのである。
「屍魔に襲われて死んだ人が、屍魔に?」
貴志は顔を青ざめさせる。他の面々もあからさまに不快感を示す。それ以上に言いようのない恐怖も禁じ得なかった。
「どこまで外道な術なんだ、反魂術ってのは」
源龍は吐き捨てるように言う。
「もうこれは、何と言うか……」
「地獄だ」
とにもかくにも、下界は言いようのない凄惨さであり。源龍の言う通り、地獄であった。
虎碧は黙り込み。さすがに九尾の狐の龍玉も、無駄口は叩かない。
「戦況が全然読めないね。これで下手に下りても……」
「無駄死にするだけだよ」
貴志は歯噛みをする。源龍も黙り込んでいるが、むしゃくしゃしながら、これも歯噛みをする。
どうするか。安全なところまで離れるか。
しかし、
「下ろせ!」
源龍はそう叫んだ。
「オレひとりでいいから、下ろせ! 屍魔と北娯維新軍の連中もろとも、頭を叩き割ってやる!」
などと言う。
「そんな無茶な!」
「そうですよ、いくら源龍さんでも、無理がありますよ」
貴志と虎碧は説得を試みるも、聞く源龍ではなかった。
落日は空を紅に染める。
落日の紅に、江北都を飲み込む炎が、この世に涌き出た地獄を映し出す。源龍はこの地獄に飛び込もうと言うのである。
「腸が煮えくり返りそうなのは、皆一緒だよ。でも、無理に下りたって……」
「ええい、うるせえ!」
源龍はあろうことか、船縁を飛び越えた。ということは、自ら落ちたのである。
「源龍!」
皆手を伸ばして源龍をつかまえようとしたが、指先は無情にも空を掴むばかり。
源龍は炎の江北都に落ちてゆく。
「なんて無茶な」
人が小さく見えるほどの高さに船はいる。ということは、その高さから落ちたら、死ぬということだ。いかに身体が丈夫で鎧をまとっていようとも、ひとたまりもない。
と思ったが。
うまい具合に高い建物の屋根に着地し、瓦を踏み割りながら屋根をくだり、さらに下の階の屋根に飛び移り。ついには地上にまで降り立った。幸いこの建物は火の手は少なかった。
で、すぐさまに戦闘である。




