鋼鉄姑娘
こんな時に限って屍魔は来ない。あらかた片付けられたからだろうか。
マリーとリオンは気持ちも落ち着いて、ゆっくり休んで養生する。貴志と虎碧は外に出て、
「暇なら稽古でもしようか」
と言えば。
源龍は、おう、と意気盛んに応じて。貴志と実戦さながら激しくやりあった。
羅彩女と龍玉、虎碧はこれを格好の暇つぶしとして、いけいけー、やれやれー、と好き勝手に声援を送って楽しんだ。
こうして身体を程よく疲れさせて。源龍と貴志は河の水で汗を洗い流し。夜も更けて、船の中で皆、雑魚寝で寝た。
翌日も、マリーとリオンの養生を確かなものにするため丸一日休んだ。マリーとリオンには虎碧が付き添い。他の者は陸に上がって、昨日同様稽古と休憩を繰り返し。
夜が更けて、雑魚寝で眠る。
そして、朝を迎える少し前。まだ夜の帳が落ち、空に明けの明星がきらめくころに目が覚めた貴志は、空を見上げて、明けの明星、暁星を眺めながら。
夜明けを迎えた。
暗闇が太陽の光で払われるまで、貴志はすべてと溶け合って、すべてとともに朝を迎えた気持ちだった。
「さあ、行こうか」
すっかり気を取り直したリオンは、船を浮かび上がらせ。空路で江北都を目指した。
空から大地の裂け目のような河を眺めて、まず本流の庸子江を目指し。そこから一路下流に沿って飛べば……。
「これはッ!」
「やりやがったか!」
貴志と源龍は船縁越しに下界を見下ろし、唸り。マリーは目をそらし、小屋の中に引き篭もり。それにリオンが付き添い。
羅彩女と龍玉、虎碧は緊張感を持ち、臨戦態勢をとる。
「いくさ……」
虎碧は碧い目を下界に向け、ぽそりとつぶやいた。
江北都には夕方ごろ、その上空に辿り着いたのだが。着く少し前から、煙が上がっていたのが見えて、嫌な予感はしていたが。その嫌な予感は当たった。
「おい、船を下ろせ!」
「だめだ!」
源龍は叫んだ。しかし、貴志はだめだと言う。
「なんか、様子がおかしくない?」
羅彩女は目を凝らして江北都の戦闘の模様を眺めて、違和感を覚えた。
「無手のやつが、相手にしがみついて。……噛みついて」
「屍魔!」
源龍と貴志は思わず一緒に叫んでしまった。
明らかに動きの様子がおかしい者が多くおり、これが無手で相手にしがみつき、挙句に噛みついているのである。
必死になれば人間そんなこともするにはするが。この戦乱では、まず第一に逃げるはずだ。しかし、多くの無手の者が逃げずに戦乱の中とどまって、無手ながら戦い続けるなど、ありえない。
江北都は北娯の都だけあって、立派な高い建物もあり、人も多く。その賑わいはこの戦乱のさなかでも容易に想像はできた。
それだけに、その凄惨さは目をそむけたくなるばかり。




