鋼鉄姑娘
しかし、それぞれ色々考えながらも、最終的に江北都にゆくことにした。
「でも、嫌なものを見ちゃったから、しばらく休みたいな……」
「私も……」
リオンとマリーはそろって休みたいと言う。虎碧はふたりを気遣う。彼女も気分は悪いが、市井や江湖で剣客として生きて来たので、多少の胆力はあって持ち堪えられていた。
「江北都に着けば休めるんじゃない?」
「うーん、もしかしたら、江北都はかえって休めないかも」
「なんで?」
貴志は羅彩女の疑問に答える。
「もう話しましたが、僕の小説では北娯維新軍が江北都に攻め入るんですよ」
「でもあんなちっぽけな集まりじゃないのよ」
「ですが、ほら、鋼鉄姑娘がすごく強くて守備兵や近衛兵をぎったんばったんと倒して……」
「なんてえご都合主義だ」
源龍が口をはさむ。戦争の素人がいかにも考えそうな展開である。
しかし、教養もあり、兵法も知らないわけでもないだろうに。小説になるとどうして貴志はそれらの欠片もないものを書くのか。
「それが空想のままならなさでもあり、楽しさでもあるんだよ」
と、とりあえず貴志はそう答えた。
そう、今いるのはただ単に北娯の時代というわけではなく、なぜか貴志の小説の世界でもあるのだ。急いで江北都に行っても、彼の言う通り休めないだろう。
「あの糞鳥、天下も出てきそうだな」
ついでのように、源龍は人食い鳳凰の天下のことを言えば。龍玉も相槌を打つ。
「出るかもしれないね。天下は臭くなったところに、臭いを嗅ぎつけてやってくるからね」
「詳しいじゃないか」
「天下が好むのは人間ばかりじゃない。妖怪も随分食われたよ」
「天下は妖怪をも食らう、ってか。なかなか食い意地の張ったことだな」
源龍は忌々しく舌打ちする。
ともあれ、水と食料の蓄えもまだあることだし。源龍と貴志、羅彩女に龍玉が見張り。虎碧がふたりに付き添い。今日と明日、休むことにした。
「世界樹様様だね」
「これもまたご都合主義だな」
「いいではないですか。おかげで私たちは助けられていますし」
マリーは笑顔で言う。ふと、
「そんなことは、どうだっていいじゃないか」
と、すまし顔で言う世界樹の子どもの姿が脳裏に浮かんだ。
マリーとリオンはゆっくり横になって休んだ。源龍ら他の面々もやることがないので、思い思いにくつろいだ。
が、しかし。
「暇だ」
という声は源龍から発され。
「嫌なものが頭の中でちらついちゃって、辛い」
と、リオンとマリーは悩み。それを見た虎碧は、ぴーんと、何かを閃き。
「貴志さん、何かお話を聞かせてもらえますか?」
と言い、貴志を少し驚かせた。




