鋼鉄姑娘
一旦現世に帰った時、自分たちは幻夢の旅人だと言われたが。自分の創作と関係があるのだろうか。
(幻夢の旅人か……)
太陽は眩しく照る。船の小屋の陰に回って陽の光を避けて、壁にもたれて足を伸ばし。日陰で心を落ち着ける。
気が付けば、そのまま眠りに落ちていた。
河にぷかぷか浮かぶ船の上、男ふたりして惰眠を貪っていた。たまにはそんな時があっていいじゃないかと、貴志は寝入る前に思った。
瞳を閉じて、しばらくして。
「ぶわっくしょい!」
派手なくしゃみの声音がしたかと思えば、それは源龍で。
「あっはははは!」
派手な龍玉の笑い声もした。女性陣が帰ってきたのだが。
九つの尻尾を出した龍玉は、してやったりと笑い。虎碧とマリーとリオンは苦笑し。羅彩女は、
「何やってんのよ!」
とぷりぷり怒っている。
寝ていた源龍は派手なくしゃみによって起きて、ぽかんとしている。鼻がなんだかくすぐったかったが。
龍玉は、
「ごめん。ごめん。出来心でさ」
と、自分の尻尾のひとつで源龍の鼻をくすぐったことを話して。源龍はますますぽかんとしてしまう。
くしゃみの声音で叩き起こされた貴志も、呆気に取られて苦笑する。
「人がせっかく気持ちよく寝てたのを起こしやがって!」
「あはは、ごめんごめん!」
源龍の怒号と同時に鋭い蹴りも繰り出されたが、龍玉はそれを難なく跳躍してかわし。小屋の屋根の上に乗った。
「うおお」
その身のこなしの軽さ、早さに思わず貴志は唸った。
買い出しは出来たのだろうか。そのことを聞きたかったのだが、うまく話が切り出せない雰囲気である。見れば誰もが手ぶらであった。
「お詫びにこの尻尾で気持ちのいいことをしてあげようか」
龍玉はお尻を向け、九つの尻尾をひらひらさせた。虎碧とマリーの親子は顔を赤らめて目をそらし。リオンもそれに続いて苦笑し。
「だめ、だめだめだめ!」
羅彩女は怒鳴って。
貴志は、
(しっちゃかめっちゃかだなあ)
と、これも苦笑を禁じ得なかった。しかしその一方で、心のどこかで楽しさも感じてしまっていた。
が、このまま楽しさにひたってばかりもいられず、買い出しはどうだったかたずねてみれば。
「だめだったよ」
リオンは首を横に振った。
「どうしてなんだい?」
貴志の疑問にリオンは、はあ、とため息をつく。お気楽な性格の彼にしては珍しい事だった。
「辿り着いた集落は屍魔ばっかりでね……」
「屍魔……」
「生きてる人はいなかった。それどころか」
リオンは途中絶句し。そこから虎碧は言葉を継ぐ。




